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ひたすら本を読む少年の小説コミュニティ

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2006.05.04
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雄々しい山々は霧を纏い、身を深く沈める。

広大な海は光を閉ざし、澄んだ闇を産み出し続ける。

空には星々が鏤められ、光の雫を落として消える。

この町は完結している。

何処をとっても完璧なのだ。

満ち足りていて欠ける事が無い。


町は夜になると一気に気温が下がり、山のような雪をしんしんと降らす。

町は朝になると一気に気温が上がり、山のような雪をじりじりと溶かす。


人は朝になれば仕事に赴き、夜になれば帰路に着く。

この町には大きな工場がある。

とてつもないほど大きく、全容を掴むものは工場長とその幹部達だけである。

高さは地上から千メートルほどあり、横幅は約五十キロほどある。

働く者は自分の職場の仕事を毎日こなすだけで、余分な想像力はいらない。

お互いがお互いにどこでどのような仕事をしてるのかさえも彼らは知らない。

同じ仕事を毎日くりかえすのだ。



街灯がポツポツと道に灯るころ、彼らの家にも灯が灯る。

家に帰れば、食卓にはビールと栓抜きと枝豆が工場からのサービスとして配給されている。

晩酌を楽しんだ後は、嫁としっぽりと身体の精力を使い果たしてから寝る。

窓の外には雪が降り始め、音は吸い込まれるように消えていく。



同じように僕も僕なりにそこで一生懸命働いていた。

しかし、僕はある日僕という存在に気付いてしまったのだ。

僕が僕に気付くまでには長い年月と多大なる労力と甚大なる犠牲者の記憶があった。




この世界は完結している。

この世界が完結しているのは、完結している人間がより完結化に向かって完結しているからだ。

ただ、僕と言う存在に気付いた僕は、完結する方向と言うよりも、非完結化に向かっている。

先日ファクトリーは僕の存在に気付いた。

僕の作業中の何気ない仕草がそれを気付かせてしまったのだ。

今頃ファクトリーは「キルギス」をこちらに向かわせているところだろう。

キルギスは恐ろしい連中だ。

並外れた行動力と体力を併せ持ち、得意気に拳銃を腰からぶら下げている。

光沢のある甲冑を身にまとい、カスの様な脳が頭の中でカラカラと音がする「ハラリ」を統率してる。

ハラリとは、キルギスによて行動を束縛されている集団である。

ハラリには考えることがファクトリーから与えられたなかったため、目の中に入ったものは本能的に全て口の中に入れてしまう。

しかし夜目に非常に優れていて、暗闇からひゅっと手を伸ばし、人間だろうが犬だろうが喰い殺してしまう、こちらも恐ろしい連中なのだ。


取り敢えず、僕はここから逃げなければならない。

僕だってそんな奴らを待つほどお人好しでもないし、考える力だって備わっている。

もし見つかったのなら、キルギスは僕に向かって憎しみが込められた鉛を僕の身体の中に撃ち込むだろうし、あるいは口から牙があちらこちらに飛び出しているハラリにむしゃむしゃと食べられてしまうかもしれない。

どちらも喜ばざる体験である。


僕はロープをドアのノブにぐるぐる巻きにして家の柱に結んだ。

さらに窓という窓には板を打ちつけ、電動ドリルでしっかりと固定した。

家の中に灯油を撒き散らして、発火装置をそこに置いた。

ドアを無理やり開ければ、マッチが十本ほど擦れて火がつくのだ。


僕は顔を洗い、歯を磨き、髪を梳かして、ジェルを塗りたくった。

そして、彼らの足音が聞こえてくる頃、窓から外に出て、最後の板を貼り付けた。

外には既に雪が降り積もっていた。







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Last updated  2006.05.04 14:34:26
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