鏡の中のボク(27)
4「先生、やっぱりダメですよ~…」 屋上前の扉を開くマジョンナに希色が声を掛けたが、「気にシナイ気にシナイ!ワタシが付いてるんダカラ!」 と、マジョンナは止める声も気にせず外へと足を運ぶ。 希色は不安そうに巧の方へ振り返ったが、巧も首をかしげてみせるしかなかった。 今日配属されたばかりの外国人教師が、こんな規則から外れた行動をするものだろうか?ミクタの口ぶりだと、マジョンナは相当な力の持ち主のようだし何か企んでいるのでは…と、そこまで考えが働いてしまう巧であった。「ウーン、いい天気ネ!マァ適当に座りマショ!」 その言葉のまま、マジョンナは適当に地べたに座って、二人も座るように促した。 それに従ってマジョンナの横に希色、巧という順で座る。 扉の入り口から端まで五十メートルはあるだろうか。安全のために周りには金網が張り巡らされていた。これだけの広さがあって、安全も確保されているのであれば、開放すればいいのにと巧は思う。こうして外に出てみると気持ちがいいし、マジョンナの言うように、ランチタイムには人気の場所となるに違いない。 しかし開放されていない代わりに、屋上はこの学校の恋の告白の名所だという話である。人目につかず話を聞かれる心配のないここは、そのような目的では絶好の場所である。ちなみに巧は利用したことはない。本当にここの出入りを禁止するのであれば、鍵をかけておくのが常だと思うのだが、もしかするとそのような場所としてわざと開放されているのかもしれない、とも巧は勝手に考えてしまう。「それジャアチヂミを頂こうカナ!?」 屋上の雰囲気を楽しむのもそこそこに、マジョンナは希色の手元にある包みを見ながら言った。「あ、はい!」 希色は返事をして包みを開けようとしたが、「あっ」と声を漏らした。「…そう言えば、チヂミしか持ってきませんでしたね。お弁当も持ってきてたのに」「oh!ホントネ!ワタシも忘れてた!」「どうします?取りに行きます?チヂミだけじゃ足りないでしょうし…」 と、立ち上がろうとする希色をマジョンナは「no,no,no」と言って止めた。「せっかく座っテ落ち着いたし、後で戻ってカラ食べればいいんジャナイ?とりあえずはチヂミ、食べマショウ?」「あ、はい…」 希色は座りなおしてチヂミの包みを開け、マジョンナの方へ勧める。「はい、どうぞ!」「ワオ!これがチヂミネ!…それジャ、イタダキマス♪」 一つ手にとって口に運ぶと、マジョンナは目を見開いた。「ウーン!デリシャス!!これヲフェスティバルで出すのネ!?very very goodよ!絶対売レル!!」 それを聞いた希色は手を合わせて喜んだ。「本当ですか!?よかった~先生に言ってもらえて、自信持ってお店に出せそうです!」 残りのチヂミをほおばりながら希色の様子を見て微笑むと、マジョンナは少し身を乗り出して巧へ語りかけた。「タクミ!…だったカナ?youは食べないノ??」 それまでぼーっと二人のやりとりを見ていた巧は、急に話を振られてハッと我に返った。「えっ?…あ、食べますよ!」 すぐさま希色の持つ容器からチヂミを手にとって食べる。「うん、うん!うまい!俺もイケると思うよ、希色ちゃん!」 希色は巧の言葉にニッコリと笑った。 対してマジョンナは表情を変えずに巧に問う。「それデ…二人は本当ハどうナノ??」 再度の質問で希色は目をしばたかせたが、巧はさすがに嫌気が差して声を上げた。「またそんなこと…いい加減にしてくださいよ!俺達は先生が期待してるようなんじゃないですから」「あ…sorry.てっきりそうなのかと思ってたカラ…ごめんナサイね」 巧の変化に驚いた様子のマジョンナを見て、希色は機嫌を損ねている様子の巧に「どうしたの?そんなに怒らなくても…」と小声で声を掛けつつ、間を取り持つよう話を移した。「あ、あの、先生?話は変わるんですけど、お住まいはどの辺なんですか?」 自分の発言で気を損ねてしまったのを気にしているのか、巧の様子をじっと見ていたマジョンナは、希色に問われてもしばらく巧の方を見ていたが、やがて希色の方に向き直った。「住まい?どうシテ?」 当の巧は、大人気ない発言の仕方をしてしまったのは分かっているのだが、向きになってしまった自分が恥ずかしくなり、そっぽを向いている。 希色もお互い巧のことは気になりつつも話をつなげる。「あ、えっと、近くのスーパー…アイドゥーアイドゥーで昨日会ったから、もしかして住んでる所も近いのかなって思ったんです」「アァ、そうネ!YES!あそこカラハ近いデスヨ!歩いて五分くらいノアパートに住んでるカラ」「本当ですか!?じゃあすごく近いかもしれないです!私の家もあのスーパーから歩いて十分くらいの所にあるんですよ」 驚きの表情を見せる希色の隣で、何となく話を聞いていた巧も息を飲む。「oh!スバラシイですネ!またお店デ会うカモ知れませんネ!」「そうですね!えっと、それで…」 希色はどう切り出そうか詰まってしまった。 今日家にお邪魔していいですか、なんてあつかましくて聞けないし、家にネズミがいますか、なんて聞き方もおかしいし…。 急に言葉に詰まってしまった希色を見つめるマジョンナは「どうしたの?」という目をしている。 その視線を感じながら、希色は気持ちがどんどん焦ってきてしまっていた。 あ~んどうしよう、もっときちんと考えとくんだった。それに巧くんはフォローしてくれる様子もないし…。 その巧も同じ心情で、どう切り出せば上手くマジョンナの家へと招待してもらえるかを必死に考えていた。 マジョンナが止まってしまっている二人の様子に我慢できなくなって口を開いたその時。「あっ!!」 声を発したのは、マジョンナではなく巧だった。「エッ、何?どうしたノ、タクミ?」 聞かれた巧は、目の前を指差して呟いた。「い、今…横切って行ったのって…」 慌てて立ち上がり、辺りを忙しく見渡す。「どうしたの、巧くん!?」 希色もつられて立ち上がる。 巧はいずれの問いかけにも反応せずに隅々まで見渡し続けた。 そして探し物は巧達からは最も遠い、隅っこにいた。「ニージョ!?」←よろしければ読み終わりの印にクリックをお願いしますm(__)m