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**************** 小さな用水路と目を射るほどの鮮やかな緑を窓枠の中に閉じ込めた部屋は、外から入ると静かで冷たくてひんやりとしていた。 部屋の隅に積まれている木の机を一つずつ並べていく間に、暑さはじんわり体の内側にこもっていく。机の前に、墨で汚れた座布団がひしゃげて煎餅のようになっているのを置いていく頃には、先生が機械仕掛けで擦った墨汁の様子を覗き込んでいる。 吊るされた、書き上がったばかりの手本の乾き具合を確かめ、つるりとした半紙、少し上等のざらりとした紙を組み合わせて、やって来る生徒達の今日の課題を準備する、先生のこめかみから、すうっと汗が流れていく。 「こんにちはー」 間延びした挨拶は来た道の照り返しに疲れた子ども達の声。てんでに課題を取って、吊るされた紙の間に折り込まれたような先生の前にもじもじと座る。ぬるついた足をくっつけたくないから、ぺったりとお尻を落として。チロリ、と先生が眼鏡の向こうから見るのに慌てて足を直し、背筋を伸ばす。 小さな子ども達は、醤油差しに入れられた墨汁を各々の机の硯に流し込むが、私は水を入れて墨をゆっくり磨り始める。微かな動き。窓の外で鳴く蝉の声に呑み込まれて混ざり合う。ざわめく子ども達のおしゃべりに踏みつけられて。磨っている音は聞こえない。重ねた脚の間から、汗が滲んで座布団へ吸われていくのを感じている間は。 墨を磨る。
心を追い詰める筆先に、耐えられるほどの濃さになるまで。 **************** お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.04.16 23:55:52
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