「立場」というもの
最近「立場」という言葉をよく聞く。「私の立場からしてそれはできない」、「私の立場というものもありますから」、「私の組織の立場からしては」などと立場、立場と話に出てくる。「立場」とは社会や組織におけるその人の位置づけ、その人の機能を示すものである一方、自由な人間としての能力、組織の行動範囲を制約するものでもある。「立場」と呼ばれるものを離れて「人間として何が正しいか」を考えてみれば容易に分かる話しであっても、「立場」が絡むと途端にややこしくなる、時には人間として正しくないことも(その組織では)正当化されてしまう恐ろしいものでもある。本来は、何か課題があったり問題があれば、関係者が集まって解決のために何をすればいいかを考えれば良いだけなのに、「立場」を考慮し始めると、それぞれの制約事項が多くなり、パズルの様にうまく組み合わせないと出来るものも出来なくなってしまう(ことが世の中にはむしろ多い)。「ご趣旨は分かりますが、私の立場からするとOKとは言えません」、「本来は当社のトップが判断しないといけないのですが現状では難しい」、「うちの立場からすればそれは無理です」とかいう言葉は、物事を停滞させ進歩を阻害する「魔法の言葉」(勿論悪魔)であって、「立場」と口にした途端に思考停止に陥る脳内麻酔薬みたいなものだ。当社の方針は全く逆で、立場なんて気にしないし、社内でも役職名さえ勝手に考えて貰っている(この間も名刺にどう肩書きを書くかを決めていた)。役割はその場その場で得意技と状況を見て決めれば良いし、外との関係においても、他の組織がやらない様なことをやると言う意味では、立場になんて拘っていない。だから薬剤メーカー的なことをやったり、組合本部、商社、ソフトウェア開発、セミナー活動、ボランティアなど、事業は何でもござれで一体何屋さんか分からないほどである。中小企業が「立場」に拘っていればその発展はない、ましてや元々万能でもさほど優秀でもない人たちが「立場」という制約条件を自らに課して思考停止に陥るなんて、人間としての成長も止まってしまうのではないか。「立場」を離れて「人間として何が正しいのか」を考えた上で出た結論を、今度は「立場」に戻って「立場」を利用して実現出来ないかを考えるのが、本来の姿だと思う。