ノーリターン
夜の帳が下りる頃、会社に電話を入れる「ノーリターン」、電話に出た同僚は「ハハ、今どこです?当てましょうか、新宿でしょう・・・ハハ、良い店見つけましたね」再び「ノーリターン」と言い残し携帯の電源を切る。大きな木の看板に立派な文字で「居酒屋」とシンプルに書かれた店へと足を進めた。店内は時間が早いせいか50席ほどのテーブルには誰も客はいない。ちと気がひけた。注文取りが「お酒は何にしましょうか?」メニューを眺めれば種類が多すぎて、選定に困る。「焼酎・・・お湯割り、梅入り」「焼酎は何でも良い、梅は大降りの・・お湯は熱め」おつまみはどうしましょう?「銀杏ある?」・・・・「塩、多目」(つまみが外れだったときの保険的つまみ)「焼き鳥、全部塩で・・」「ホッケ」「・・カルパッチョ」若い時はつまみにこだわったが、今では塩にこだわる岩塩のあの甘みが無類に好きになった。仕事の途中で銭湯を見つければ時間さえ許せば入る。酒、塩、銭湯段々単純化していく・・・なぜノーリターンに本日なったかって・・・若い賃貸人に自分らしくも無く・・・・住んでもなく家賃8万円の部屋を借りて数年間・・・、保証人のお姉さんから依頼を受けたため本人に自分なりに諭したのです。この男性、部屋を借りているのは別れた妻と子供が近所に住んでいるから、縁を切りたくないから借りているのだと・・・・2年間、そして、目を悪くしてしまった、肺にも・・・・「やめな、別れたんだからけり付けて、君のその優しさは、違う面で出してあげなさい、部屋借りるのやめてその部屋代を別れた妻と子供に毎月あげて縁を切らないようにしてあげるのが男の優しさだぜ・・・姉さんもあなたの今の状況を一番心配しているよ」彼とは握手して別れた。その後姉さんから電話があり・・・「弟は決心したようです、弟に誰も今までそんなこと言ってくれなかった。」不動産以外でも何かあったら電話するように弟さんに伝えてください。仕事外の余計なお世話をしてしまった。(悪い癖です)こんな優しくて生き方の下手な若者が大好きで・・・・過去は戻らない・・都会では人間関係が希薄で職場でもうちあける友がいないのだろうかそんな日は・・・・ノーリターンゆっくり酒を飲んで・・・タバコを爪の先でポンポンと叩き、火をつける。煙が目にしみるぜ・・・・・いてもいいだろこんなオヤジ