灰色の空のむこうには…

死神の精度


でも、たとえば、自分と相手が同じことを考え
たり、同じことを口走ったりするのって、幸せ
じゃないですか


ＣＤショップに入りびたり、苗字が町や市の名前で
あり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に
触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、
死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者
の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行
される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う
六つの人生。

０６年に直木賞にノミネートされたときにラジオで
紹介されて以来、ずっと読みたいと思っていた本作
をようやく読むことができました。地味に僕は文庫
本派なので、何があろうが文庫本が発売されるまで
ずっと我慢していたのですが、この本のことをいつも
調べてもずっと見つからなかったのです。たまたま
見ていたテレビのＣＭでこの本が映画化されたのを
知り、それに便乗する形で文庫本が発売されたのを
知ったのですが、今まで見つからなかったのも納得
しました。というのも、ラジオで題名を聞いただけ
だったのでずっと「死神の制度」というキーワード
で検索していたからです。そりゃ、見つからない訳
です。運転しながら聞いたので作家さんの名前なんて
覚えてなかったし。

待ちに待った小説を読み終えた感想としては期待を
裏切らない面白いものでした。６編の短編からなる
小説ですが、死神・千葉の目を通して見る人間の
不思議さと意外な伏線が良かったです。特に僕的には
「恋愛で死神」の編がとても味わい深い余韻を残す
もので良かったです。ほとんどの短編が対象者に
対して可の判定が下されるので必ずしもハッピーエンド
ではないものばかりでしたが、その中にある対象者
たちの精一杯の生き様は、あえて最後の結末まで
描かず想像させることによって読んだ人間の数だけの
物語がある清々しい作品でした。