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テーマ:小説かいてみませんか(122)
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2月14日
迷っている。二人とも「こなす」ほど器用ではないのはわかっていた。 だからどっちとも10時にした 薄氷のようなショコラ。 安心感のあるチョコレート。 ゆっくりと髪をとかして、めずらしくアップにする。 鏡にむかって上目遣いになった自分の目に、気持ちが、見えた。 「10時なんて時間にごめん。」 「丁度、オレも忙しくてかえってよかった。」 「こないかと、思った。」 「どうして?」 「あなたはいつも、大人でオレを振り回して、それでも余裕だから。」 私は、わらった。 「そう見えてしまうところが、子どもなんだよ。」 相手を促して、ヒールを響かせた。 「どこ行くの?」 「チョコレートショップ。買い忘れたの。だから、いまから買うの。」 「えー、でももうこんな時間じゃ空いているところなんでないと思うけど・・・」 それでも強引に先を歩き、あのブティックのような店の前で私は止まった。 「こ、このお店って、すっげー高いよ。ありえない値段だし。いくらなんでも 衝動買いには大胆すぎるよー。」 私は目の端だけで笑って、ドアを開けた。クローズとなっているドアを堂々と開けた。 「いらっしゃませ。お待ちしていました。」 あの男は、表情ひとつ変えずに、丁寧に接してきた。 わずかに目を細めた抑えた、感情の表情がとても官能的。 多分ひとりなら、すぐにカウンターを越えてしまいそう。 「チョコレートが欲しいんです。ショコラではなくて。チョコレート。 今の私と、この彼に合いそうなチョコレート。」 男はすこし考えて、一つのショーケースからショコラを出して、しばらく背をむけた。 「どうぞ」 だされたものはホットショコラ。 一口飲むとほろ苦く、そしてとろけるように甘く、最後にピリッとした刺激。 「うわ、これさいごに辛いよ。」 男は満足そうに、一枚のカードを差し出した。 「このメニューの名前はチョコレートラブです。」 苦く、甘く、刺激的。 もう2度と名店と言われているこの店には足を向けることはないだろうけど、 いいお店って、あした同僚に紹介しよう。 私は、チョコレートの男と店を出た。 「大人な店しってんだなー、ありがとう!でもさ、なんであんな時間に開いていること知っていたの?」 「さあ、ね。」 私の選んだ男はチョコレート。 期間限定でしか手に入らない、焦燥感に駆られた恋はもういらない。 「ね、そこのコンビニの新製品のチョコ、おいしんだって?買って帰ろうか?」 「いいね、ついでにココアの素も買っていい?」 「うん、いいよ。」 ホットショコラはココアでいい、ショコラはチョコでいい。 あたたかいチョコレートの男の手のひらを握り返して、私はすぐ手に入る甘いチョコレートを口いっぱいにほおばった。<了> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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