|
テーマ:小説かいてみませんか(122)
カテゴリ:カテゴリ未分類
水銀灯がゆらゆらと水面を照らす。夜になって気温が下がった温水プールに、もうもうと水煙が立っている。足の先をプールに浸す。27.5度。私の一番好きな水温だ。
誰も泳いでいないプールは、波が立たない。そのため水銀灯の明かりは、鏡面のように水面を変えてしまう。 スタート台にたって覗き込むと、私の顔が映る。泣いている。いつだって鏡に変化したプールに映る私の顔は泣いている。 ひとりでいる時にしか、水の鏡は私の顔を映さない。 泳ぎだすと、波が規則的にひろがる。水面は乱反射して、目に悪そうな水銀灯の明かりが呼吸の為に上がった顔を刺してくる。夜のプールで泳いでいると真実と現実の間でいつも溺れている。 本当は泣いているのに、泣きたいのに、泣けない。 私は、子供の頃から、泣かない子供だった。 でもプールではゆっくりと涙をためることができる。このプールの幾分かは、私の涙でできている。 何千メートルこのプールで泳いだのだろうか。回遊魚のように、100メートルを60本というメニューをこなしたこともあった。あの時はプール全体が人間の回遊でうねっていた。海の感覚に似ていた。そして私は、魚の脳になって無心に回遊した。 大学の水泳部に入って、ずいぶんと私の体は変わった。締まった足首と張った太ももは、厭味なくマイクロミニを受け入れた。みっしりとついた筋肉の上につるりと脂肪の膜をまとった二の腕は、なめらかに弧を描き、ノースリーブに迫力を加えた。 完全に水生生物の適応体になった。 同時に練習後、プールサイドに上がるときの体の、思いもかけない重力をもてあますようになっていた。 適応しない場所にいると、体が重く、息も苦しい。そんな場所がプールサイド以外にあった。 自分の家だった。 ・・・・・・・・ 小説をスタートさせます。いつもどおりゆっくりですが、気持ちの内面を丁寧にえぐって生きたいと思います。気長におつきあいください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|