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テーマ:カルト映画(14)
カテゴリ:テキトーな映画レビュー
謎ときをしようと思って何度も挫折したあなたに贈る『ロスト・ハイウェイ』シリーズ第四回は登場人物検証編です。
シーンを注意深く見ていくと明確になってくる登場人物の隠れた特徴のご紹介と、謎解きを行います。 作品をすでにご覧になった方で、しかもこまごまとしたポイントを詳しく理解したい方を対象としていますので、いきなりこちらのページにお越しいただいた方は、第一回からご覧いただくとよいかもしれません。 謎ときをしようと思って何度も挫折したあなたに贈る『ロスト・ハイウェイ』 【第一回】 リンクをクリックすると、記事の各セクションに移動します。 【第一回】『ロスト・ハイウェイ』作品紹介とわかりやすいあらすじ 【第二回】ストーリー解説 【第三回】制作側のネタばらし 謎ときをしようと思って何度も挫折したあなたに贈る『ロスト・ハイウェイ』 【第四回】 はじめに 『ロストハイウェイ』の楽しみ方 登場人物について 1.フレッド・マディソン 2.ディック・ロラント 3.レネエ・マディソン 4.アンディ 5.ミステリーマン 6.ピート 7.シーラ 8.ミスター・エディ 9.アリス はじめに『ロストハイウェイ』を楽しむうえで押さえておきたいポイントと、見落としがちなポイントを、当方所有の DVD/ブルーレイメディアのタイムスタンプを付記しながらまとめます。 タイムスタンプは製品パッケージによって異なりますので、あなたがお持ちのメディアとはタイムスタンプにズレが生じている可能性があります。 あくまでも参考値としてご覧いただければ幸いです。 当方所有の DVD およびブルーレイディスクは次のとおりとなります。 ■ DVD リージョン:2 発売元:パイオニアLDC株式会社・松竹富士株式会社 販売元:パイオニアLDC株式会社 発売日:1998/06/25 時間:135 分 型番:PIBF-1023 ASIN:B00005FXGR EAN:4988102437817 ■ ブルーレイ リストア版 リージョン:1 発売元:株式会社コムストック・グループ 販売元:パラマウント ジャパン株式会社 発売日: 2012/04/27 時間:135 分 型番:PPWB300124 ASIN:B0076DL1KC EAN:4988113745147 こちらのディスクは、枚数限定で発売された二枚組のブルーレイディスクですのが、今は入手困難になってきています。 本編のディスクに加え、リンチ監督のオリジナルモノクロアニメーション DumbLand (ダムランド)が収録されたディスクが付属しています。 本編ディスクのみでもまったく問題はありませんが、このセットをどうしてもゲットしたい方は、B0076DL1KC、4988113745147 あたりで検索してみてください。 付属ディスク『DumbLand(ダムランド)』のご紹介 【収録時間:34分】 デヴィッド・リンチ監督によるオリジナルアニメーションディスク。 DavidLynch.com 用に製作された作品で、八話分が収録されています。 フェルトペンで描いたような粗削りな画風で、リンチ流ブラックユーモアがパラパラ漫画風に展開していきます。 第一話: Neighbor (隣人)―― 義手の隣人は小屋で飼っているアヒルと…… 第二話: The Treadmill (ランニングマシーン)―― 痩せないなら運動するな 第三話: The Doctor (医者)―― 割れたランプに指入れちゃだめ 第四話:A Friend Visits (友人の訪問)―― 友人はこれから釣りに行くそうで 第五話:Get the Stick(棒を取れ)―― 口のなかに棒が挟まった人がいるから取って! 第六話:My teeth are Bleeding (歯から血が出た) ―― プロレス見てたら歯から血が出てきたよ 第七話:Uncle Bob (ボブおじさん)―― ボブおじさんの様子が変だよ 第八話:Ants (アリ)―― 家の中にアリの行列が!殺虫剤で退治してやる 個人的には第八話:Ants の『クソ野郎』ソングのアリによるタップダンスがおすすめです。 内容はとってもとっても教育上よくないですが、ノリはかなり Beavis & Butthead に近いです。 気持ち悪い呼吸のしかたもそっくりですが、内容的には『ダムランド』の方がトラウマになってしまうかもしれません。 『ロストハイウェイ』の楽しみ方『ロスト・ハイウェイ』は数回鑑賞しただけでは、そのおもしろさは四割程度といったところでしょう。 どの映画でも共通にいえるのですが、何回も観ることによって新しい発見がふえていくものです。 ここでは、謎解きをご自身でトライしてみたい方向けに、準備作業をご紹介します。
あとは、リモコン操作に慣れておくことですね。一時停止、コマ送り、再生速度変更はどうしても必要になりますから。 登場人物についてここからは、『ロスト・ハイウェイ』の謎を解くために外せないポイントをまとめていきます。 1.フレッド・マディソン●病的な虚言癖、ウソつき 世の中には、まるで息をするようにウソをつく人がいますね。 フレッドがまさにそういった人間で、ウソをつくことに対する罪悪感がありません。 次の二つのシーンで、それが明確に示されています。
●幻覚、幻聴 フレッドには幻覚や幻聴が起こっているのですが、彼自身がそれを認めたがりません。 ミステリーマンの登場により、不可解で不気味な存在が目の前に姿を現したことにフレッドは恐れおののきますが、それ以前にも何度もミステリーマンは彼の前に姿を現しています(詳細は別項にまとめます)。 ●偏執的な妄想癖 レネエの不貞行為に対し、ありとあらゆる妄想を展開しているために、実際に起こってないことまであたかも起こったかのように決めつけるクセがあります(詳細は別項にまとめます)。 2.ディック・ロラントレネエがディック・ロラント(=ミスター・エディ)の愛人であったことは映像で示されていますが、ディック・ロラントの人物像についてはほとんど映像化されていません。 ピートの人生にかかわってくるミスター・エディは、愛人アリス(=現実世界ではレネエ)に対し異様な執着心を燃やす男として表現されていますが、これはあくまでもフレッドというフィルタ越しに見たエディ像にすぎません。 フレッドが知っているのは、レネエがディック・ロラントのポルノ映画に出演していたこと、ディックロラントと愛人関係にあり、その関係が今も続いていたこと、そして、スナッフ・フィルムの製作経験から、自分の利益のためなら人殺しも厭わないタイプの人間だということです。 3.レネエ・マディソンレネエが出演したポルノ映画のシーンの映像は鮮明で大写しになっています。【DVD:01:39:00~01:39:26、01:41:49~01:42:01、02:05:18~02:06:03】【Blu-ray:01:42:36~01:43:04、01:45:45~01:46:03、02:04:43~02:05:31】 スクリーンの中の彼女は、この仕事を楽しんでいるかのようにとても生き生きとしていますね。 しかし、これらもフレッドというフィルタ越しに見た映像です。 レネエがポルノ映画に出演していたという証拠が彼の記憶にとても強烈に刻まれたために、それがフルスクリーンで強調されてはいますが、レネエが実際にどのような気持ちでこの仕事にたずさわっていたのかは明らかになっていません。 しかし、「とにかくアンディはいい人よ」とレネエ本人が言うくらいですし【DVD: 00:36:17】【Blu-ray: 00:33:52】、パーティにも喜んで出かけるところから、レネエとアンディの関係は良好だったことがわかります。 また、アンディと楽しそうに過ごしているレネエのリラックスした笑顔【DVD:00:31:00~00:31:19】【Blu-ray:00:27:55~00:28:17】は、フレッドの前で見せる緊張感をともなった笑顔【DVD:00:07:33~00:07:49】【Blu-ray:00:06:27~00:06:36】とはあきらかに違います。 フレッドがレネエの浮気現場を押さえてロスト・ハイウェイ・ホテルに乗り込んでいったときも、ディック・ロラントがレネエを呼ぶ声はとても甘い響きになっています【DVD:02:02:00】【Blu-ray:02:02:09】。 また、パーティでフレッドがディック・ロラントの死を口走ったときにも、レネエの顔にはっきりと動揺の色が浮かびます。【DVD: 00:35:05、00:35:29~00:35:35】【Blu-ray: 00:32:30、00:32:59~00:33:05】 このようなことから、レネエがディック・ロラントに可愛がられていたことは想像に難くありません。 しかも、アンディは自宅の目立つところにレネエとディック・ロラントとで写った写真を大切に飾っていますので【DVD:01:42:05~01:42:30、02:07:21~02:07:35】【Blu-ray:01:46:05~01:46:32、02:06:59~02:07:16】、三人はポルノ業界を通じて親交を深めていった仲間であることが導き出されます。 いずれにせよ、夫がいる身でありながらレネエが不貞を働いていたことはまちがいないでしょう。 おまけ情報としては、レネエがめったに本を読まないタイプであることもわかりますね。 読書をしたいからライブハウスに行かないと言う彼女にフレッドがビックリしているくらいですから【DVD:00:07:09~00:07:43】【Blu-ray:00:06:15~00:06:34】。 4.アンディアンディは口数こそ少ないですが、『ロスト・ハイウェイ』の中で唯一ヒューマンスキルの高い人物として描かれています。 パーティのシーンでは気のいいオッサンぶりを発揮し、招待客の間を行ったりきたりしながらリップサービスをかまします。【DVD:00:30:48~00:30:55】【Blu-ray:00:27:44~00:27:51】 招待客の女:「アンディ―いいパーティね」 アンディ:「ステキだよ」 アンディ主催のパーティでこれだけの人を集められるのですから、彼はそれなりに知名度の高い人物であることが推測できます。 招待された女はアンディの名前を口にしますが、アンディは女の名前を口にしません。 彼はこの女の名前を知らないからです。 社交の場では、名前を知っていれば親しみを込めて名前で呼ぶのがマナーですから。 それでもニコニコしながら手の甲にキスしたりしてご機嫌を取ることを忘れません。 はた目からはアンディは陽気でいい奴に映るのです。 アンディはレネエにぴったりと寄り添うようにしてデレデレしています。【DVD:00:31:00~00:31:20】【Blu-ray:00:27:55~00:28:17】 その人なつこさにレネエも完全にリラックスしていることが見てとれます。 フレッドとの距離感や緊張感とはかなり対照的ですね。 アンディはこの大豪邸の持ち主ときていますから、招待客の多くはアンディに気に入られようとしています。 それは、彼がたくさんの仕事の口を抱えていて【DVD:00:36:08】【Blu-ray:00:33:41】、豪邸が建つほど成功しているからです。 そして、彼に気に入られるということは、何らかしらの形でポルノ業界や裏世界にかかわることを意味します。 そのやり方のいくつかは、パーティ会場の招待客を通じた仕事のあっせん、外部でのスカウトなどです。 レネエはモークスというバーでアンディから声をかけられています【DVD:00:36:01~00:36:02、01:28:48】【Blu-ray:00:33:34~00:33:36、01:31:08】。 言葉たくみにベッドに連れ込むのはお手のもので、レネエが言うような「友達になった」のは、セックス フレンドであったことは想像に難くありません。 ある程度自分になつかせて警戒心を取りのぞいてから、ポルノに出演させるというコースでしょうね。 アンディは、金のためなら平気で女を売りさばくタイプの人間ですが、業界のドル箱にのし上がったレネエに対しては面倒見と金払いがいいのも頷けます。彼にとっては重要な金づるですから。 だから、レネエにとってアンディは「いい人」にはちがいなのです。 また、個人的にとても気になったのは、アンディの目ですね。 彼の瞳孔はヤク中のように開きっぱなしなのです。 そういう役柄のために瞳孔を大きくしたコンタクトレンズを使用しているのか、もともと瞳孔が大きいタイプなのかはわかりませんが、フレッドの目と比べても不自然です。 こういったことから、アンディが薬物の売買にも手を染めている可能性もありそうなのですが、明示的に語られているわけではないので、この部分は想像の域を出ません。 5.ミステリーマン白塗り男、ミステリーマンは一体どういう存在なのか。 その答えは明確には示されていませんので、鑑賞者が想像するしかありません。 ただ、ミステリーマン自身とアンディの発言から想像することはできますので、本編から書き出してみます。
彼らの発言をもとに、ミステリーマンの存在についてさらにまとめてみましょう。
アンディのセリフ「ディックロラントの友達さ」で、あたかもアンディが断言しているような印象を与えますが、原文は "I don't know his name. He's a friend of Dick Laurant's, I think." ですから、忠実に訳すなら「名前はわからないな。ディック・ロラントの友達じゃないかなあ」というような、あいまいな受け答えなのです。 ここで、このシーンをより細かく見ていきます。 ミステリーマンの立ち位置としては、アンディにはほぼ背を向けてしまっている状態です。【DVD:00:34:48~00:34:49】【Blu-ray:00:32:12~00:32:13】 つまり、アンディには斜め位置からの男の後姿しか見えていません。 フレッドとミステリーマンとの不思議なやり取りの直後ですから、もちろん私たちにもそれがミステリーマンにしか見えないわけですが、アンディの目には単なる黒服の小柄なオッサンの後姿しか見えていないのです。 さらに補足すると、ミステリーマンはフレッドと別れると、いったん人混みの中に姿を消します。【DVD:00:34:28~DVD:00:34:35】【Blu-ray:00:31:48~DVD:00:31:59】 フレッドは階段の踊り場に立っている黒服の男をミステリーマンと決めつけて話をすすめますし、私たちにも確かにミステリーマンが見えますが、これは単なる映像マジックであり、よく似た他人の後姿と解釈することができます(だからアンディを含め、このパーティ会場のすべての人にこの招待客が見える)。 したがって、アンディは自分が知らない招待客はディック・ロラントの招待客か友人だろうと単純に考えたことが導き出されます。 しかも、アンディが「ディック・ロラントの友達じゃないかな」といい加減なことを口走るので、鑑賞者はあたかもアンディにもミステリーマンが見え、またミステリーマンがディック・ロラントの友達であることを知っていると錯覚してしまうのです。 さてこのミステリーマンですが、人間だったら瞬間移動できませんし、同じタイミングで複数の場所に存在するという芸当などできるわけがありません。 よってミステリーマンは人間ではない何か、ということは最低限わかります。 幽霊(レネエまたはディック・ロラントの亡霊)や、悪魔や、死神などといった解釈もできるでしょう。 アンディ邸でのパーティではまだレネエが生きていたことを考えると、そこにレネエ自身の亡霊がミステリーマンとして出現することは考えにくいような気もします(パーティ自体がフレッドの妄想であるならそれも可能ではありますが)。 また、超常現象説に走ると、この手の映画作品はすべてそれで片づけられてしまいますので、ここではあえて超常現象という解釈は避けたいと思います。 招待されたときだけ姿を現す、勝手に「家」にあがり込んでくる、フレッドの記憶にないことを知っている存在、そして見るにもおぞましいその姿。 人間が持つ醜い姿、醜態とは何でしょうか? 怒りを露わにしたとき。 激しい憎悪と嫉妬に狂うとき。 殺意をおぼえたとき。 人間の醜い感情は、誰もが他人に見せまい、知られまいとしますが、悲しいことに他のどの感情よりも素直で、そして饒舌に真実を語るものです。 人は本当の感情にウソをつくことなどできないのです。 普段は自分の意識の奥深くに押しやっているこの醜い感情も、ふと何かのきっかけで、突如としてその姿を現すことがあります。 フレッドの身はパーティ会場にありながら、「頭」ではレネエの不貞について怒りの感情をくすぶらせていたので、ミステリーマンはその怒りの感情に招かれて姿を現したのです。 また、意識はどこにでも飛ばすことができますね。たとえばパーティ会場で楽しく過ごしながらも、家の戸締りやガス栓のことを心配したりすることなどは、誰もが普通にやっていることです。 ピートの人生でも、ミスター・エディ(=ディック・ロラント)が、愛人アリス(=レネエ)をピート(=フレッド)に取られたことに対する嫉妬心と、彼女を独占できない激しい怒りに加え、フレッドが実際に犯した殺人の罪の重さをミステリーマンに代弁させたりしています。【DVD:01:36:38~01:36:53】【Blu-ray:01:39:56~01:40:13】 他人にはとても見せられないような醜い感情を持つことは誰にでもありますが、フレッドとディック・ロラントがともに抱える心の闇、醜悪な部分は病的なほど深刻であり、彼らはこの闇の感情の部分で不本意にも共鳴しあっていたのです。 そして、その感情に先に気づいていたのがディック・ロラントでした。 ロスト・ハイウェイ・ホテルでフレッドに襲われた時点で、ディック・ロラントはフレッドがレネエの件で復讐にやってきたことを理解します。 首を掻き切られ、瀕死の状態になりながらも、自分の欲望を満たすためなら殺人にも手を染める自分の人間性をフレッドに重ねます。 「お前と俺なら―もっとすごいポルノを撮れたな」【DVD:02:06:24~~02:06:33】【Blu-ray:02:05:55~~02:06:04】 これは本編の意訳なので、この部分をバリー・ギフォードの小説『ナイト・ピープル』の一節に置きかえると、よりしっくりくると思います(【第二回】参照)。 「お前と俺は、よお、ほんとうにろくでもねえ野郎だな、そうだろ?」 一人の女をめぐって二人は同時に破滅コースに乗り上げてしまいましたので、同じ穴のムジナ状態に失笑せざるを得なかったのかもしれません。 6.ピートピートはフレッドの化身として独房の中で魔法のような登場を果たしますが、奇跡や魔法が起こるか、全身整形でもしないかぎり、まったく別の見てくれの他人になってしまうことはありえません。 フレッドからピートへの変身後は、ピートという赤の他人の人生劇場が展開されると思いきや、その中身はやはりフレッド自身であったというオチが終盤に示されます。【DVD:01:55:34~01:56:00】【Blu-ray:01:57:09~01:57:30】 また、フレッドに戻ってしまった後も、フレッド自身がそれに気づいていないのです。 当たり前のようにピートの服に着替え、すっかりピート気取りで小屋に消えたはずのアリスを探し回ります。【DVD:01:56:33~1:57:26】【Blu-ray:01:58:19~1:58:29】 ピートという架空の人物を演じているうちに、それが自分そのものなってしまっていたために、フレッドは化けの皮がはがれても、まだ自分がピートだと信じきっているのです。 今やミステリーマンと対峙しているのは、まぎれもなくフレッドという連続殺人犯なのですが、フレッド自身、自分が本当は誰なのかいまだにわかっていません。 だから序盤では余裕しゃくしゃくの薄笑いを浮かべていたミステリーマンも、とうとうしびれを切らして怒鳴り散らすことになります。 「お前の名前は?お前の名は一体 何だ」【DVD:01:57:42~01:57:48】【Blu-ray:01:58:42~1:58:46】 それでは、フレッドはどのようにして本当の自分を隠そうとしたのでしょうか。 これは、フレッドとピートの特徴と性格を比べてみるとわかりやすくなります。 ◇フレッド 年齢:32 婚歴:既婚 体形:ちょっとだけ腹出てる 職業:音楽家(テナー・サックス) 友人:ほとんどなし 性格:閉鎖的 性欲:淡泊 好みの女:レネエ 音楽の好み:うるさいジャズ 逮捕歴:殺人 ◇ピート 年齢:24 婚歴:未婚(恋人あり) 体形:筋肉質 職業:自動車整備工 友人:たくさん 性格:社交的 性欲:旺盛 好みの女:アリス(=レネエ) 音楽の好み:静かな音楽 逮捕歴:車の窃盗 腕利きの自動車修理工になりきり、激しいサックスの音色に強い拒否反応を示す徹底ぶりで【DVD:01:11:48~01:12:25】【DVD:01:12:04~01:12:48】、フレッドという存在を自分の中から排除したピート。 気のおけない仲間も可愛い恋人もいて、出所後から張り込みをつづける刑事に「あの野郎はお盛んな男だ」と皮肉を言われるほどの色男ぶりも発揮しますが、アリスの出現によって人生の歯車が狂いはじめます。 地元の連中に囲まれながら無難な人生を送るはずが、次第にアリスなしではいられなくなってしまいます。 それどころか、アリスにそそのかされて殺人まで犯してしまいます。 ピートが一人の女に入れ込んだせいで人生が完全に制御を失い、最終的に殺人に手を染めてしまうという流れは、まさにフレッドの人生そのものです。 ミスター・エディがご褒美によこしてきたポルノの VHS テープをピートがやんわりと断った【DVD:01:07:34~01:07:44】【Blu-ray:01:07:20~01:07:31】のは、レネエがポルノ業界に関わっていたことへの強い嫌悪感のあらわれであり、またレネエ殺しを暴いたのが VHS ビデオテープであった【DVD:00:42:39~00:43:43】ことから、フレッドが意識的にビデオテープを忌避しているからです。 フレッドの精神状態がサイコジェニック・フーガ(Psychogenic Fugue)で表現されることは【第一回】および【第三回】ですでにご紹介しておりますので疾患に関する考察はここでは省略しますが、フーガが遁走曲という音楽用語である点についても、リンチ監督および脚本家バリー・ギフォードが言及しています。 フレッドの人生を遁走曲風にあてはめていくと、ハイウェイを疾走してきた男が「ディック・ロラントは死んだ」というメッセージを残すというイントロに続いて、結婚生活に悩んでいるうちに精神に異常をきたした男が妻に対する嫉妬で怒り狂い、第一級殺人犯として死刑判決を受けるというメインテーマに流れつき、その後に続いてピートの人生が始まるものの、結局は同じように女が原因で殺人を犯す流れで収束し、愛する女も消えたあとで(レネエは死亡、アリスは消滅)、再び「ディック・ロラントは死んだ」というメッセージを残し、ハイウェイをひた走るエンディングに向かっていくという構成になります。 はじめと終わりが同じ構成でつなぎ合わされているので、無限ループ、メビウスの輪、ネバーエンディングストーリーとも表現できますね。 7.シーラピートの恋人として登場するシーラですが、彼女もフレッドの妄想世界の住人です。 黒髪のショートヘア、黒い(暗色)マニキュアが特徴の彼女は、犬のような従順さでいつも愛情に飢えていますので、ピートにとってはとても都合のいい女なのです。 ピートの両親との関係は良好ですが、ピートにはいいように利用されてばかりなので、見ていてとても哀れです。 しかし、最後にはピートの浮気を知り、火がついたように怒り狂います。【DVD:01:33:58~01:34:19】【Blu-ray:01:36:54~01:37:19】 黒髪、黒いマニキュアはレネエの特徴にも一致します。 レネエをシーラに重ねると、レネエにもシーラのように自分を求めてきてほしかったというフレッドの期待が透けてみえてきます。 また、浮気をしたピートに対するシーラの激しい怒りは、ほんとうは正面から堂々とレネエの浮気行為を追及するべきだったという、フレッドの後悔も感じられます。 ざっとまとめるとこのような感じになりますが、そのほかにも、シーラは「あの夜」ピートに何が起こったかを知る数少ない人物の一人でもあります。【DVD:00:00:50:56~00:51:08、01:24:52~01:25:02】【Blu-ray:00:50:11~00:50:23、01:26:44~01:26:52】 「あの夜」の詳細については別項にまとめます。 シーラは「あの夜」のことがあってから別人みたいになってしまったとピートを責めます。【DVD:01:34:25~01:34:31】【Blu-ray:01:37:26~01:37:33】 ここで、二回目に登場する「あの夜」のシーンにもどってみましょう。【DVD:01:24:52~01:25:02】【Blu-ray:01:26:44~01:26:52】 シーン最後に惨殺されたレネエの死体がチラっと映りますね。 「あの夜」、ピート(=フレッド)が別人のようになり、恐ろしいことが起きた(シーンの最後にレネエの惨殺死体が映る)ことから、「あの夜」は、正気を失って別人のようになってしまったフレッドがレネエを殺してバラバラにした夜であったことが導かれます。 さらに、「あの夜」のことを言ってしまいたいシーラは、フレッドの心の中に潜むかすかな良心のあらわれであるのに対し、ピートの両親があえてピートにそれを教えないようにしたり、警察には言わないようにしようとするのは、フレッド自身が「あの夜」のことを封印しようとする強い意志のあらわれであり、彼の頭のなかでは常にこの二つの意識がせめぎあっているのです。 8.ミスター・エディミスター・エディはフレッドが知るディック・ロラントと同一人物ですが、先述の考察のように、実際はディック・ロラントがどんな人物だったのかということは明確になっていません。 しかし、フレッドの妄想世界に登場するエディの人物像はかなりはっきりしたものになっています。
これらもすべてフレッドの妄想がつくりあげたエディの特徴ですが、フレッドがレネエ出演のポルノ映画をチェックしたり、アンディのパーティに参加していくうちに、レネエ、ディック・ロラント、アンディの関連性を勝手に想像した結果でしょう。 上記のうち、赤字で示した部分はすべてフレッドの性質に一致します。 しかも、これらの極端に醜い感情によって、ミステリーマンが呼び出されてくるとことまで一致しています。【DVD:01:36:14~01:37:00】【Blu-ray:01:39:29~01:40:19】 フレッドはレネエが出演したポルノ映画に対し強い不快感を示していますが(だからパターンを変えて何度も登場する)、実はフレッド自身がそれ以前からわりとこの趣向の作品を好んで鑑賞していた可能性も否めません。 ポルノ映画大好きだが、自分の女が出演するのは絶対に許せないというのは、男にはよくありがちな理屈だからです。 赤と黒という、あまり人が好んで使わないような配色で統一されたフレッド邸の内装、正気の一線を超えてしまったようなジャスサックス演奏、セックスの日が決まっているなど(フレッド側が性欲をコントロールしているのか、倦怠期を乗り越えるための工夫なのか)、異様な緊張感と義務感に満ちた夫婦生活がこの二人から伝わってくることも原因しているのかもしれません。 【補足】 フレッドのセックスの日が決まっているであろう理由については、レネエの寝姿と、フレッドの出現場所がヒントになります。
これらの情報から、普段は二人とも全裸で眠っているわけではないことは明らかですし、生活のリズムの違いや、夜通し行われるフレッドのライブ活動や楽曲制作などに配慮して、フレッドは楽器の練習につかっている寝室で一人で寝ていることなどが導かれます。 現実では忌まわしい存在のはずのディック・ロラントが、虚構の世界でエディとして出現する理由には、次のように推測できます。
9.アリスアリスはピートの人生を破滅させる存在ですが、なぜフレッドはわざわざ妄想世界にまでアリスをレネエの化身として登場させたのでしょうか。 最愛の妻を殺してしまった強い悔恨の念がそうさせたことがまず考えられますが、彼にとって女はレネエただ一人なので、どんな女を想像したとしても、最終的には理想の女はレネエの容姿に行きついてしまうといったところでしょう。 天才的な詐欺師や想像力豊かな小説家でもなければ、ベースモデルもなしに人物像をこと細やかに想像することはまず無理でしょうから。 それでも、アリスがプラチナブロンドの巻き毛だったり、いつも下着同然の衣装だったりするところには、フレッドの妄想力の痕跡が見られます。 フレッドはピートとしてアリスと燃えるような理想の恋に落ちますが、いかんせん容姿がレネエですから、アリスと過ごす時間が増えればイヤでもレネエ的な要素が混入しきてしまいます。 なかでも決定的なのは、「あの夜」のシーン【DVD:01:24:52~01:25:02】【Blu-ray:01:26:44~01:26:52】の最後に惨殺されたレネエの死体がチラっと映るところです。 フレッドのレネエ殺しをフラッシュバックしたことをきっかけに、ピートの行動は一気に人道を外れていきます。 すっかり記憶から切り離したはずのアンディ殺害を妄想世界でもう一度やらされるハメになります。【DVD:01:39:40~01:41:16】【Blu-ray:01:43:21~01:44:50】 そしてその手助けをするのがアリスです。 彼女が天使のような性格だったとしたら、フレッドはどうでもいい存在のアンディを殺した事実をすっかり記憶から消し去ってしまうでしょう。 しかし、アリスは私利私欲のために男を渡り歩くずるがしこい女ですから、ピートにアンディを殺すように働きかけ、そのグロテスクな光景を目の前で見せることによって、その罪の重さをわからせようとします。 アリスはフレッドにとって現実には手に入れられなかった最高の恋愛対象であると同時に、これまでの殺人に対する懺悔の対象なのです。 ところが、いくら最高の女であっても、ピートが強く求めたとしても、アリス(=レネエ)は決してピート(=フレッド)のものにならないことが、砂漠のシーンで示されます。【DVD:01:53:41~01:55:03】【Blu-ray:01:55:41~01:56:39】 「あんたには あげないわ」【DVD:01:54:48~54:53】【Blu-ray:01:56:26~01:56:30】 この一連の流れは、フレッドがレネエを殺してしまったので、彼女はもうこの世には存在しない(人殺しをした事実は変わらない)ということと、人の心はどんな手段を使っても束縛できない(独占できない)という二つの意味が込められています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.08.07 15:03:04
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