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ブルース・ルシュエ 身長は高く、 体も大きく、 しっかりしていて、 不自然なくらいに姿勢が良く、 いつも飾り気のない目立たない色の、 清潔でしわのない服を着ている。 決められた時間に遅れることなく、 時間より早く来て煙草をふかしながら、 水筒に入った大好きなコーヒーを飲んでいる。 いつもサングラスをかけていて、 サングラスをはずすと青みががった 深い目をしている。 目には地平線の見える広い大地が映っている。 いつも遠くを見つめている。 残り少なくなった白い髪、 鳥のように高い鼻、 深い微笑をたたえる口、 太く大きな手、 刻まれた顔の皺は、 どれも、彼の生きた証として、そこにあり、 また彼を語る一部となっている。 口数は少なく、 必要なことを必要なときに言う。 限られた「言葉」を 整然と並べ、 理解に迷わない。 ゆったりとした彼の動きは、 無駄がそがれ、 一つ一つが、 何かを語りかけようとする。 彼の周りの空気は緊張し、 引き締まっている。 彼から僕は車の運転を教わった。 ある日彼は、僕にこういった。 「もっと誇りを持ちなさい。」 一瞬、 「言葉」として理解することができなかた。 でも、感じることはできた。 感じることができたのなら、 それは「言葉」ではなかったのかもしれない。 とにかく、そう感じたんだ。 確かに彼は口を動かし、 その口から、 その肺から、 その喉から、 その声帯から、 「言葉」という 「意味」を持った音を発した。 僕の耳も、 鼓膜も、 その「意味」ある音の空気の振動を受け取り、 その感覚は電気的な信号として 脳に伝わったに違いない。 しかし、そのそれぞれの動きは、 「言葉」としての機能を持たず、 ただの「動き」にしかすぎなかった。 僕の気持ちは高ぶった。 心臓が、 血を強く押し出し、 あつい血が、 体中に流がれた。 僕はその時何を感じたのだろうか。 彼は、 昔、軍人だった。 今彼に残ったものは、 不自然なくらいの姿勢の良さと、 大きくしっかりした体と、 厳しく規律を守る精神と、 無駄がそがれた動作と、 煙草を深く吸い込むことと、 その他に、 何を残したのだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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