週刊 読書案内 リービ英雄(英訳)・中西進(日本語現代語訳・本文)・井上博道(写真) 「 Man'yō Luster万葉集」(パイインターナショナル)
リービ英雄(英訳)・中西進(日本語現代語訳・本文)・井上博道(写真)「 Man'yō Luster万葉集」(パイインターナショナル) 日本語で書く作家リービ英雄の万葉集英訳の仕事については、「英語でよむ万葉集」(岩波新書)について、すでにご案内していますが、「全米図書賞を受けたという全訳の仕事は翻訳・出版されていないのかな?」 と思って探していて、この本に出合いました。 パイインターナショナルという、聞いたことのない本屋さんから出ている万葉集フォト・ブックの趣の、大きさは文庫版ですが、紙質も少し厚手で、400ページ近い分厚い本です。 英訳は、もちろん、リービ英雄で、現代語訳は中西進、井上博道という人の写真が歌のイメージと重ねられて編集されている美しい本です。 お出かけのカバンの隅に入れて、電車の中でぼんやり覗くのにもってこいですが、少々重くて、価格も1900円ですからお高いかもしれません。 ちょっと開くとこんな感じです。 By Kakinomoto Hitomaro,when Crown Prince Karu sojourned on the field of AkiOn the easyern fieldsI can see the flames of morning rise.Turning around,I see the moon sink in the west. 軽皇子の安騎の野に宿りましし時に、柿本朝臣人麿作れる歌 東(ひむがし)の野に炎(かぎろひ)の立つ見えてかえり見すれば月傾(かたぶ)きぬ 東方の野の果てに曙光がさしそめる。ふりかえると西の空に低く下弦の月が見える。 で、つぎのページにこういう写真です。 ぼんやり眺めるのに最適でしょ。 本書の事実上の著者、英訳者のリービ英雄は巻頭の「万葉の艶」という文章をこんなふうに締めくくっています。 翻訳しても翻訳しても、驚きは消えなかった。 そして、翻訳してみると、おそらくは多くの日本人が想像している以上に、万葉集は「外」のことばにも伝わる、ということが分かった。 あをによし寧楽の京師(みやこ)は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり という日本語が The capital at Mara. Beautiful in blue earth, Flourishes now like the luster of the flowers in bloom となる。花が「にほふ」。花が輝く。花には艶がある。ことばの艶、ことばのlusterが千三百年経っても消えない。 万葉の艶は、英語にも出る。英語に出たとき、万葉集は、人類の古代から受けつがれている最大の抒情詩集、というもう一つの像を結ぶ。 万葉集は新しい。 電車の話に戻れば、光が差してくる窓のブラインドを下ろして、スマホを覗くのに夢中になっている人たちのうつむいた姿が、ずっと並んでいるというのが日常の光景になって久しいですが、そんな中で「万葉集」とか英語でたどたどと読んでいるなんていうのは、世間ずれの程度が、ちょっといいと思いませんか? 万葉集は新しいのです!