アイリーン・ルスティック「リッチランドRichland」元町映画館no251
アイリーン・ルスティック「リッチランドRichland」元町映画館 朝起きたら、なんだか眩暈がしました。暑い暑い夏が始まっています。「ああ、これは見よう!」 そう思っていたドキュメンタリーですが、元町映画館、朝一番、10時30分のプログラムです。ああ、朝から暑い、何とかして‼ とか何とかぶつぶついいながら、なんとかたどり着いた元町映画館でした。 見たのはアイリーン・ルスティックという女性の監督の「リッチランド」というドキュメンタリー作品でした。猛暑のなかやってきて見たのですが、正解でした(笑)!! 映画製作者、まあ、アイリーン・ルスティック監督ですが、彼女のスタンスというか、世界に対する向き合い方に、少なからぬ共感を感じた作品でした。 ボクたちの世代は、個人個人の「核」をめぐる思考が、賛成か反対かという二項対立の中に飲み込まれた中で50年生きてきた世代といえるかもしれません。 ボク自身についていえば、少年時代に「核」の平和利用は夢でしたが、今では、たとえばチェルノブイリの事故をいろいろなニュースや書物で知り、先の震災でフクシマの原発の事故を目の当たりにし、「想定外」という、傲慢というか、無責任というか、少年時代に刷り込まれた「人類の進歩と調和」 という1970年の大阪万博のスローガンの底なし沼のような無根拠を照らし出したこの言葉を、何となくな、言い訳のための流行言葉にして私に責任はありません! とばかりに開きなおっている電力会社や経済優先主義者の姿に「アホか!?滅ぶぞ!」 と嘯くばかりの老人です。 で、映画です。 まず題名の「リッチランドRichland」です。アメリカの町の名前でした。解説をボクなりに要約してみます。 リッチランド ワシントン州ベントン郡の都市、人口は約6万人。先住民族が古くから住んでいた土地に1900年代に移住者が入ってくるようになってできた田舎町です。 「リッチランド」という地名は、当時の州議会議員ネルソン·リッチの名が由来だそうですが、1943年に核燃料生産拠点「ハンフォード·サイト」が設立され、あのマンハッタン計画に従事する労働者や家族が住む町として発展し、数百人だった住民は約25,000人に増加し、第二次世界大戦終結後も、冷戦による核燃料生産の需要増によってさらに発展したようです。 町の成立当初は、政府により住民との接触は制限され、陸軍が管轄した軍事都市で、取材とかも軍の承認を必要とし、土地や建物、インフラまでも政府が所有、管理していたそうですが、1957年に政府は土地と建物の権利を住民へと移譲し、外部のメディアと住民との接触の制限が解除さたそうです。 1987年、最後の生産用原子炉が閉鎖され、環境浄化技術の開発の町になり、現在もリッチランド住民の多くは、ハンフォード·サイトの浄化に関する仕事に従事しているそうです。 要するに、あの「マンハッタン計画」の原材料を生産していた軍事都市でした。で、今では、町周辺の核物質汚染の浄化が問題になっているようです。 で、ボクが一番驚いた! のはこれでした。 町の高校の校章です。 一目見て、わが目を疑うというか、絶句! でしたね。 映画の中では、この校章を巡って、高校生たちの議論があります。他にも、町の成り立ちや、核に対する考え方について、賛成、反対、否定、肯定、住民たちの意見がインタビューされています。浄化の作業に従事するボランティア、先住民の生活を受け継ぐ老人、その高校の教員だった人、様々な人が真摯にインタビューに答えています。高校生たちの議論も穏やかで、筋の通ったものでした。 この映画のすばらしさというか、ボクを納得させたよさは、そこにあると思いました。監督が住民たちのことばを聴きだすことができるポジションに立っているのです。おそらく、この映画を撮ることを可能にした監督の思想の深さがそこにあると思いました。 で、監督のプロフィールですがアイリーン・ルスティック イギリス生まれ、ボストン育ちのアメリカ人1世で女性です。両親はチャウシェスク政権下のルーマニアを政治亡命者として逃れてきた人。『リッチランド』以前にも、ご両親の人生を追った作品など、3作の長編を制作なさっているようです。現在は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で、映画およびデジタルメディア学教授として映画制作を教えいらっしゃるそうです。 監督が目指しているのは、二項対立によって思考停止、あるいは、考えるということが抑圧されている反知性主義の蔓延する社会に対する、「ちょっと待って!」 ですね。 この態度は、新自由主義の横行というのでしょうか、うまくいえませんが、損か得かですべてを判断しているかの現代社会において、文字通り画期的ですね。 町に住む老若男女の穏やかなダイヤローグ、意見交換を重ね合わせるように映し出していきながら、今を生きている人間の未来に対する責任を、静かに問いかけてきた映画の最後に不思議な「ファットマン」の映像がフワフワと浮かんでいるのが印象的でした。 ちなみに、最初のチラシの奇妙な写真が、その「ファットマン」です。広島出身の被爆三世のアーティスト川野ゆきよさんの「(折りたたむ)ファットマン」というインスタレーション作品だそうです。映画の最後に映し出されますが、彼女の祖母の着物をほどいた布を、自らの髪で縫い上げ、長崎に落とされた「ファットマン」の造形を実物大の大きさで形作った、ちょっと凧のような作品でした。まあ、これを見て、もう一度「核」について考えることを始めまてみませんか? 映画は、静かにそう呼び掛けているようにボクは感じました。拍手!監督・編集 アイリーン・ルスティック製作 アイリーン・ルスティック サラ・アーシャンボー撮影 ヘルキ・フランツェン2023年・93分・アメリカ原題「Richland」2024・07・20・no089・元町映画館no251追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)