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正岡子規「笑う子規」(ちくま文庫)
初夢の 思いしことを 見ざりける南伸坊という面白いおじさんがいるのをご存じだろうか。イラストレイターで編集者。なんと説明したらわかるのか、わからないからまあいいやという態度で説明すると、昔、「ガロ」っていうマンガ雑誌があって、そこで編集者をしていた時に「面白主義」という考え方を提唱、実践して以来、「面白いでしょこれ」的な表現の世界を作ってきた人なんだけど、当然、面白い人には面白いけど、面白くない人には面白くないわけ。 だからこの本も、ぼくは面白がれるけれど、「アホか」という人は大勢いるというわけ。 まあ、そこのところは、とりあえずということで、この本は子規の有名ではない、「ばかばかしいねこれ」っていう俳句を集めて、一冊の句集を作ったという本で、句集だから季節の順に並んでいて、一句ごとに南伸坊のイラストがつけられているというわけ。 本句集の開巻第一句が上の句。お正月の俳句ですね。このページのイラストにつけられている短歌がある。 なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな 現代語で書くと「長き夜の 遠の眠りの 皆目覚め 波乗り船の 音の良きかな」となるんだろうけれど、江戸時代くらいの短歌で、前から読んでも後ろから読んでもおんなじという、回文歌。七福神の「宝船」の有名な歌らしい。初夢を見る夜に枕の下に敷いて寝ると縁起がいいはずだというやつね。 というわけで、子規の一句一句がマンガになっていて、そのためにマンガになりやすい句を探しているという趣向。 行水や美人住みける裏長屋《落語の妾馬じゃないが、昔から美人は裏長屋に住んでるもんだ。ま、そうでない場合もあるけどな。》とか。 睾丸の大きな人の昼寝かな《なぜか度胸のすわった男はアレが大きいと思われている。が、もちろんアレの大小と人間の大小はまったく関係がない。それにしても、褌からハミだしているあの人のアレは大きいなあ。》とかね。 有名どころを一つ紹介すると。 柿食えば鐘がなるなり法隆寺 《柿を食ったら鐘が鳴った。なんの関係もない関係のおもしろさ。ズレの裂け目からおかしみが顔を出す。》があるくらいですね。 でも、やっぱり、おかしみはズレの裂け目に転がってるんですよね。 南伸坊さんは、この企画で調子に乗ったのかどうか、「ねこはい」「ねこはいに」(青林工藝社)という迷著も出版していて、これは小学生でもわかる俳句集。なにせ、猫が作ってる俳句ですから。 いちめんの ねこじゃらしなり われひとり ネコであってこそのリアルが追及されていて、迷句ぞろいですが、イラストと一緒でないと面白くありませんね。 週刊読書案内 2017 その1 発行所 The astigmatic bear‘s lonely heart club 発行日2017・07・15(S) ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.05 21:29:55
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