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カテゴリ:読書案内「丸谷才一・和田誠・池澤夏樹」
丸谷才一「日本文学史早わかり」 (講談社文芸文庫) 人間が好色なのは、昔も今も、日本も中国も、みな同じだが、中国歴代の史書を読むと、あの国は日本よりも淫猥なことが少し多いやうである。ところがあの国は、何につけても倫理善悪のことだけうるさく言ひつのるのが癖になってゐて、好色のことなども例の賢ぶる学者たちが非難してあばき立て、憎々しい口調で厭らしさうに書き記す。さういうふわけだから、詩にしても、自然さういふ国の風俗に従い、堂々たる男子の雄々しい心構へについて言ふのが大好きで、それだけをあつかふ。めめしくて見つともない恋情の情など、恥ぢて口にしない。しかしこれはみな、表面を取りつくろい、偽る態度で、人情の真実ではないのに、それを読む日本人は深く洞察せず、中国の詩文にあるのを事実と思ひ込み、中国人は色情に迷ふことが少ないなんて判断する。馬鹿げたことである。 本居宣長がこうした主張にいたった事情について、丸谷は二つのポイントを指摘しています。 ひとつは西洋近代の恋愛小説を知らなかったにもかかわらず、こう主張した宣長の恋愛体験について。 もうひとつは宣長が日本の古典のみならず、漢文の書物についても非常に博学多識、勉強家であった点。 もちろん、日本文学に関する考察としては、ここが始まりであって、宣長の影響下に明治の小説群もあったというのが丸谷才一という作家の主張です。 ついでの話ですが、宣長が平安朝の美意識を評して使い、今では常識として定着している「もののあわれ」という用語の出典は藤原俊成の歌だそうです。 恋せずは 人は心も なからまし もののあわれ もこれよりぞ知る この本の後半では、丸谷は「女の救われ」というテーマで、今度は平家物語の悲劇のヒロイン建礼門院徳子めぐる考察を繰り広げています。これまた面白いのなんの、ハハハ。 要するに皇后さんの男性遍歴についての考察なんですね。面白がり方が少しおっさんかもしれませんね。反省! ともあれこの本は講演を元にしていて、読むのに手間がかかりません。教養の間口を広げる読書としては超オススメですよ。今では、全集で読むしかないのかもしれませんが。図書館になら、まだあるでしょう。是非どうぞ!(S) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.26 23:25:34
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