クリント・イーストウッド「運び屋The Mule」OSシネマズ・ミント神戸 全く初めてではなかったが、昨年の徘徊老人デビューしてからは初めてやってきた三宮ミントの映画館「OSシネマズ・ミント」。予約チケットの入力をすると、「その番号は予約されていません」と画面表示。
いきなりパニック!
繰り返し操作してみるが同じ画面。アワアワとなりながらサービスカウンターを見ると、若い女性がニッコリしている。
「あのー、これ上手くいかないんですが?」
「シマクマセンセーですよね。」
「ああ、ここにも救いの神が。」
人と出会うのが仕事だった職業も、こうなってみると悪くない。QRコードとやらで再チェックしていただいて、セーフ。
なかなか座り心地のいい座席に座って、見回すと、昔、新聞会館という名前の映画館があったことを、覚えていそうな人でいっぱい。
「さあ、イーストウッドや。」
花畑でクリント・イーストウッドが花を、ユリの花を摘んでいるシーンから、「運び屋The Mule」が始まった。
老イーストウッド。相変わらず偏屈。男前。家族にも時代にも馴染まない。丸腰なのが不思議だ。明らかな老いを後ろ姿、腰から背筋のあたりに湛えている。重いガン・ベルトをつける体力は、きっともうないにちがいない。
「ホントウに見捨てられた男なのか?見捨てたんじゃないの。」
これがアメリカという感じの平原。まっすぐな高速道路を走るピックアップ・トラック。朝鮮戦争帰りの男と在郷軍人会の老人コミュニティー。スペイン語でしゃべるコカイン密輸の男たち。ポークサンドとスナック菓子とモーテル。どうしても通じ合えない妻と娘。
風景は美しいが、イメージは乾いている。物語はうまくいくはずのない破局の予感を掻き立てていく。孫娘の学費のために金が欲しい。愚かな欲望が、家族から見捨てられた男を際立たせる。あくまでも孤高、あくまでも傲慢。出来たことが出来なくなっていることが、我慢できない。広大なアメリカの風景が、微妙に震えているような印象がずっと続いている。
「ぼくが老人だからかな、この印象は。」
妻の死に際して事情を知らない家族は彼の人生を許すが、組織と警察は許してくれない。運び屋稼業は予想通り御用となる。
裁判が始まる。弁護士が老人を擁護する。老人は弁護士を遮り声を発する。
「ギルティ―!」
たった、一言。これでこの映画はぼくの記憶に残る映画になった。ほかの人がなんと評価しようが構わない。涙があふれてきて、止まらない。裁判はコカインの密輸容疑を裁いていた。しかし、老人は自らの人生を裁いた。「有罪」。ぼくにはそう見えた。
エンドロールをぼんやり眺めながら、80歳を越えて、自らに「有罪」を宣告したクリント・イーストウッドに心を奪われたように感じていた。
思い出が頭の中に湧き上がってくる。あの頃から映画を見始めた。50年近くの年月がある。ずっとスクリーンの中にかっこいいイーストウッドで立っていた。「ローハイド」、「荒野の用心棒」、「夕陽のガンマン」、なんといっても「ダーティハリー」・・・・
「そうやんな。グラン・トリノの遺書より、こっちがすごいやんな。まいったなあ。」 三宮から元町に向けて歩きながら、イーストウッドになった気分で、ちょっとイキッテみたけど、哀しかった。それから、高倉健の最後の映画を思い出していた。あれは日本の映画だったと思った。
元町駅の手前の赤信号で立っていて、若い女性から声をかけられた。
「〇山です!」
ほぼ、10年ぶりの再会。仕事で出会った人だが、この仕事をしていて、よかったんじゃないかと思わせてくれた人だ。しばらく、立ち話をして、近況交換。
明るい笑顔で手を振ってくれて、手を振り返しながら横断歩道を渡った。
「まあ、ギルティ―じゃないこともしたかもしれない。」
そんなふうに思えてうれしかった。今日はいい日だったかもしれない。
監督 クリント・イーストウッド
製作 クリント・イーストウッド ティム・ムーア
クリスティーナ・リベラ ジェシカ・マイヤー
ダン・フリードキン ブラッドリー・トーマス
原案 サム・ドルニック
脚本 ニック・シェンク
撮影 イブ・ベランジェ
美術 ケビン・イシオカ
衣装 デボラ・ホッパー
音楽 アルトゥロ・サンドバル
キャスト
クリント・イーストウッド(アール・ストーン)
ブラッドリー・クーパー(コリン・ベイツ捜査官)
ローレンス・フィッシュバーン(主任特別捜査官 )
マイケル・ペーニャ(トレビノ捜査官 )
ダイアン・ウィースト(メアリー)
アンディ・ガルシア(ラトン)
イグナシオ・セリッチオ(フリオ)
アリソン・イーストウッド(アイリス)
原題 「The Mule」 2018年 アメリカ 116分 2019・03・12・OSシネマno2
追記2019・06・17
イーストウッドが新しい映画を企画しているということが聞こえてきた。アトランタ五輪爆破テロ事件を題材にした「Ballad of Richard Jewell」という題名の作品らしい。ますますという感じ。でも、まあ、観に行かなくちゃあね。
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