金大偉「花の億土」十三第七芸術劇場
亡くなってしまった石牟礼道子の声が聞きたくて、顔が見たくて、朝から、市バス、JR、阪急と乗り継いで十三までやって来ました。チッチキ夫人、ピーチ姫と連れ立って、家族で映画鑑賞会。「おー、十時開演に間に合ったぞ。」
そのとき、フト、そういえば、学校は夏休みですが、世間の方々は、お仕事だったのだと思いだしました。三人並んで観たのは金大偉のドキュメンタリー、「花の億土」です。 座って語り続ける石牟礼道子の顔。ユラユラと歩きながら、諤諤と首が動く様子で暮らしている立ち姿。いいよどみ、いいよどみする、あの声が、宇宙だか、あの世だか、海のむこうのほうだか、をかたり続けているように聞こえます。
「これ、これ、ふふふふ。これが聞きたかった。石牟礼さん、何を言ってもいいよ。宇宙の果てまで行こうが、魂の奥底をのぞき込もうが、人類の滅亡を予感しようが。あなたが、文字通り懸命に語りかけていらっしゃる、どもって、言いよどんで、頭もからだも、ゆらゆら、ゆらして。なんのかっこも、わざともなく、悶えていらっしゃる。それを見ていて、聞いていて、ぼくは気持ちが軽くなるのがわかるのに、涙が止まらない。」
映像にくぎ付けになりながら、ふと、違和感が萌してきました。書店のプロモーションフィルムの匂いがにじみ出ています。
「監督さん、ひどいことだと、失礼なことだと分かっていていいます。監督さんがなさっている編集というか、解釈というかは、勝手な思い込みの老人には邪魔なんですよね。石牟礼道子の、いつわりのない声と表情を、自分の頭だか、こころだかのどこかにこすりつけて帰りたいだけなんです。申し訳ないんですが、彼女を、なんだかえらい人にしないでほしいんです。」
観終わって、十三の商店街を歩いて、チッチキ夫人とピーチ姫と三人でうどん屋さんに入りました。
「おとん、大阪やねんから、うどんやろ。なんでそばやねん。」
「キツネそばって書いてるから、うん?って思って頼んだのに、ハイ、タヌキねって,なんやねん。いっしょやん。」
「ああ、そばならタヌキか。」
「自分もざるそばやん。」
「ああ、暑いから、でも、カヤク飯つけたし。ちょっと、その卵とじうどん、ツユ飲ましてよ。」
「神戸と一緒やで、はい、どうぞ。」
「やっぱり、ぬくいうどんがよかったかな。」
お土産には、いつの間にかチッチキ夫人が「酒蒸し饅頭」を買っていました。
「いつ買うたんや?油断もスキもないな。」
「ここに来たら、やっぱり、これやんか。食べへんの?」
監督・撮影・編集・音楽 金大偉
ナレーション 米山実
配給 藤原書店
2013年 日本 113分 2018・08・17七芸・シアター7no4
追記2023・05・26
古い記事を修繕しています。もう5年位前の出来事です。三人でうどん屋さんに入ったことだけ、妙に覚えていました。
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