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カテゴリ:映画 フランスの監督
フィリップ・ド・ブロカ「まぼろしの市街戦 Le roi de coeur」元町映画館no5
元町映画館とか神戸アートヴィレッジセンターの企画で、時々やってくれる古い映画の再上映。デジタル・リマスター版という言葉の意味もよくわかっていないが、うれしいですね。 この日は一日に三つもすることがあって大変でした。須磨の高倉台で一つ目の用事を済ませて、JR須磨海浜公園まで徘徊。兵庫駅からアートヴィレッジまで再び徘徊して「マクベス」のお勉強会に参加。元町映画館まで歩いて、午後7時20分のブザーに無事着席。ペットボトルのお茶で一息ついていると劇場が暗くなりました。 「まぼろしの市街戦」が始まりまりました。 第一次大戦、だから1910年代のヨーロッパです。フランスの小さな町のようですね。ドイツ軍のヘルメットはこのころから同じスタイルです。街では戦況危ういドイツ軍が時限爆弾を仕掛けて、撤退の準備をしています。 占領されているフランス領土の解放にやってきたのはスコットランド軍です。例のスカートをはいていますね。もうそれだけで笑いそうになるのですが、スクリーンの中の人々は懐かしい喜劇特有のドタバタ歩きをしているのが、なんともいえずおかしいですね。 成り行きで爆弾解除を命じられたのが通信兵ブランピック(アラン・ベイツ)。通信兵とはいううものの、要するに伝書鳩の飼育係が、最も危険な任務、「アホかいな」と叫びそうになるお仕事をやらされているところが不可解至極です。 いやいや、そういう映画なのでした。街に入ったブランピックはドイツ軍と遭遇してドタバタ。わけのわからない通信文を伝書バトに託し、ほうほうのていで逃げ込んだ先が精神病院(?)というわけでした。 ドイツ軍の爆弾騒ぎで人っ子一人いなくなった街に、ゾクゾク繰りだしてくる狂気の人々。いったいどこにこんなに大勢の人がいたんでしょうね。 教会で礼服を手に入れた司祭、入念に化粧しエロティックに着飾った娼婦たち、きどった公爵、パスし続けるラガーメン、ブンチャカ楽しい楽隊。ハートのキングをひいて王様になった男だけが、気もそぞろのようすです。 サーカス、戴冠式、記念撮影、パーティー、乱痴気騒ぎ、あれこれ、これ荒れ、何がないかわからないカーニバル状態、もちろん壁の模様はすべてハートですよ。 檻から出ようとしないくせに、やたら咆哮するライオンもいれば、街角をうろつきまわる熊もいます。オジサンととチェスをするチンパンジー、こっちを向いて立っているアフリカゾウ。ラグビーボールがパスされて、美少女が綱渡りをしています。あどけない娼婦は王様に恋していて、こちらでは、将軍だか元帥が奪い取った装甲車を陽気に乗り回しています。 一つ一つのシーンがバカバカしくて、で、陽気で、なぜか美しい。素晴らしき「阿呆たち」。いつかどこかで見たことがある、そんな気分を煽り立てています。 正気といえばいえないこともない、王様で通信兵のブランピックですが、彼は彼で、成り行きまかせと偶然の大活躍。時限爆弾は解除され、花火が乱れうちのように打ち上げられて、カーニバルは最高潮に達します。 花火を爆発だと思い込んで、戻ってきたドイツ軍。バグパイプを鳴らしながら進駐してきたスコットランド軍。二つの軍隊が正面対峙し、互いの銃が連射される。双方の兵士たちは次々に倒れ、死者の山が築かれていく。 目の前で繰り広げられた「狂気」にシラケた「狂気」の人々は、きっとこう思ったに違いないでしょう。 「俺たちの芝居に比べて、お前たちの芝居はやりすぎだ!気が狂っているとしか思えない。付き合いきれない。」 とうとう、王様役だったブランピックに向かって、恋人役の美少女コクリコがこういいます。 「帰るところに帰りなさい。」 別れの言葉を残して、陽気で夢見る人々は鉄格子の錠前を自らおろし病院の中へ去ってゆきます。 軍に復帰し、勲章をもらい、最前線を命じられ、軍服に身をかためたプランピックを乗せたトラックが、ずっと向うの戦場に向かって去ってゆきます。映画はあっけなく終わりました。 と、トラックの去った街角から、銃を捨て、ヘルメット捨てながら走ってくる男がいるじゃあありませんか。病院の鉄格子の前にたどり着いた彼は素っ裸ですよ。その「狂気」の男を修道女はにっこり笑って受け入れるのです。 通信兵ブランピックは修道院へ戻り、再びハートのキングの生活が始まりましたとさ。 スクリーンが暗くなる。思わず拍手!そういう気分ですね。元町映画館の企画にも拍手!映画館を出ながら、顔なじみの受付嬢と目が合いました。 「よかったでぇ、明日も来るし。」 「ありがとうございます。」 外に出ると商店街は暗くて、不思議な文字の垂れ幕が薄緑色に浮かんでいた。 「令和てなんやろ?だれが、正気なんかわからん時代が始まってノンかな?えらいこっちゃなあ。はよ帰ろ。」 帰って調べてみると、原題の「Le roi de coeur」はトランプカードの「ハートのキング」。映画を見ていて、このままの方が「題名」の意味はよくわかるような気もしましたが、邦題というのは、まあ、そういうもんなんでしょか。 監督 フィリップ・ド・ブロカ 製作 フィリップ・ド・ブロカ ミシェル・ド・ブロカ 原案 モーリス・ベッシー 脚本 ダニエル・ブーランジェ フィリップ・ド・ブロカ 撮影 ピエール・ロム 音楽 ジョルジュ・ドルリュー キャスト アラン・ベイツ(プランピック) ピエール・ブラッスール(ゼラニウム将軍 ) ジャン=クロード・ブリアリ(公爵 ) ジュヌビエーブ・ビヨルド(コクリコ ) アドルフォ・チェリ フランソワーズ・クリストフ ジュリアン・ギオマール ミシュリーヌ・プレール ミシェル・セロー 原題「Le roi de coeur」 1967年 フランス 日本初公開 1967年12月16日 上映時間 102分 2019・04・25・元町映画館no5 にほんブログ村 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.14 09:18:50
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