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カテゴリ:映画 アメリカの監督
マイケル・チミノ Michael Cimino「ディア・ハンター」シネ・リーブル神戸
名画の誉たかい「ディア・ハンター」が4Kデジタル修復版再公開とかで、映画館にやってきた。夜の19:30から3時間という、いまのぼくには、ちょっと腰が引けるプログラムだった。
しかし、徘徊老人シマクマ君は意を決してシネリーブルの前から5列目に座ったのだった。 友人の勧めもあったが、見ていないと思い込んでいて、やっぱり映画館で見なきゃねと、重い腰を上げたのだが、結婚式のシーンを見ながら、「必ずここに連れて帰ってくれ。」と頼むニックの葬儀のシーンで映画が終わることが浮かんできた。 「あっ、この映画知ってる。」 1979年というのは、ぼく自身がまだ映画を見ることに夢中だった最後の頃で、ロバート・デ・ニーロ演じるマイケルはもちろんのこと、気の弱い友達スタンリーを演じるジョン・カザールの顔を見て、いろんなことが思い浮かんできた。 フランシス・フォード・コッポラの名作「ゴッドファーザー」のシリーズでアルパチーノの困った兄貴。おなじくコッポラの「カンバセーション…盗聴」では盗聴のプロ、ジーン・ハックマンの助手。シドニー・ルメットの、というよりアルパチーノの「狼たちの午後」では相棒。あの頃の映画ファンなら、「ああ、あいつや。」という印象的な脇役で、突如死んでしまったジョン・カザール。 この映画は、彼の遺作なのだ。ついでにいうと、確か、リンダを演じているメリル・ストリープは彼の婚約者だったはずだ。 もっとも、そういう豆知識は記憶していて、次々浮かんでくるのに、映画のストーリーは浮かんでこない。あの頃、たぶん、ぼくはこの映画に対して、今回感じた良さがわからなかったのだと思う。 映画の宣伝のなかでも、ロシアン・ルーレットのシーンが繰り返し取り上げられるが、ぼくはこういうスリルを見せられるのが、大体において好きではない。疲れて仕様がないからだが、サイコもホラーもスリルも嫌いな奴が映画館に何しに行ってんねんという感じだが、まあ、苦手は苦手ということで仕方がないが、それでも好きなんだから‥‥。 当時のぼくは、その恐怖というか、スリルの緊張に引っ張られた印象で映画を見終わっていたにちがいない。 今回は少し違っていた。映画を見ている間ずっと「ディア・ハンター」という題が何故つけられているのかが気にかかり続けていた。確かに主人公たちは出征の前と後に二度、鹿狩りに出かける。 二度目の鹿狩りの時にマイケルは、かつて「一発で仕留めるべき獲物だった鹿」が、今、「撃てない何か」に代わっていたことに気づく。そこから、彼は一緒に出征したスティーヴンとニックを本気で探し始める。 鹿には森の精霊というイメージがあることは東西を問わないらしいが、それに重ねて「幸運」「探すべき謎・宝・神」というシンボルとして考えて間違いなさそうだ。 彼は「ディア・ハンター」になったわけだ。 そう考えると、出征前にディアー・ハンティングをめぐって交わされた、ニックとマイケルの会話が、最後の哀切なシーンの伏線になってることも、納得のいく展開だった。 スティーヴンの結婚のシーンから始まり、ニックの葬儀で終わる映画は、まさに、1970年代、戦争をするアメリカという国が犠牲にしてきた移民二世たちの悲惨な青春を活写して印象深いし、彼らが帰ることを願った、溶鉱炉の真っ赤に溶けた鉄と熱い炎、立ち込める黒い煙の街こそが、強いアメリカと貧しい労働者を象徴しているようにぼくには見えた。 PTSDが「流行り言葉」になっていなかった当時、マイケルの中にある戦場トラウマを、戦友の苦難に立ち向かうことで回復するを描いていることにも揺さぶられた。 明らかに、戦争をする国家に対する非難を込めた映画でありながら、「ゴッド・ブレス・アメリカ」が回復を目指す象徴として歌われていることに、一抹の違和感を感じずにはおられなかったことも忘れてならないことだと思う。 映画館を出ると、夜の11時を過ぎた三宮で、中空に、ほぼ満月。 オールナイトで映画を見ることが平気だった頃があったことを思い出した。 「さあ、垂水から、どうしようかな?」 監督 マイケル・チミノ 脚本 デリック・ウォッシュバーン 撮影 ビルモス・ジグモンド 音楽 スタンリー・マイヤーズ キャスト ロバート・デ・ニーロ(マイケル) ジョン・カザール(スタンリー) ジョン・サベージ(スティーヴン) メリル・ストリープ(リンダ ) クリストファー・ウォーケン(ニック) 原題「The Deer Hunter」 1978年 アメリカ 184分 2019・02・19・シネリーブル神戸(no7)
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最終更新日
2023.11.19 19:10:38
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