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カテゴリ:映画 アメリカの監督
ジョン・キャロル・リンチJohn Carroll Lynch「ラッキー 」パルシネマ
パルシネマで予告編を見ていて、気になった男がハリー・ディーン・スタントンHarry Dean Stantonでした。 「どこかで見たことがあるぞ。こんなジジイじゃなかったけど。でも、そんなにいい役だったかな?」 ヴィム・ヴェンダース「パリ、テキサス」で、主役だったあの男です。覚えてないなあ。見た記憶がウッスラある。ほかでも見たことがあるような気がする。 ポスターのまんま。青空の、本当に、雲一つない青空の下に男が立っています。カメラが引いて行って、男が向うの方へ歩いて行って、でも、まだ、スクリーンのどこかで何かが動いています。ジーと探していると、シーンの下の方にカメが歩いているのです。西部劇でおなじみのサボテンの下です。石ころだらけの地面の上をノッタラ、ノッタラ歩くカメです。「なんじゃ、これは。こんなところにカメとかいるのか?まあ、ガラガラヘビとかじゃなくて、よかったけど。」 そんな具合に映画は始まりました。 ポスターのイメージより、ずっと老人です。 部屋で起き出して、煙草をくわえる。体を拭く。髭を剃る。歯を磨く。不思議な体操のようなことをして、冷蔵庫の牛乳飲む。シャツを着て、ズボンをはく。カウボーイハットのような麦わら帽子ををかぶって部屋を出る。喫茶店にやってきてコヒーを頼みながら、店の人たちに憎まれ口をたたく。店のテーブルに座り込んで、クロスワードパズルを始める。リアリズムという言葉が、お気に入りのようです。 最初の店を出て、街を歩く。立ち止まって、アーチがかかっているほうを向いて、憎まれ口をたたいている。カメラはそっちを映さない。だから、なんで不機嫌なのかわかりません。で、また歩き始めます。 何でも売っていそうな小さなマーケットに立ち寄ります。牛乳パックとたばこを買います。お店の女性が声をかけています。みんなから「ラッキー」と呼ばれているようです。 小さな町なんです。 夜になって、みんなが集まるバーにやってきます。飲むのはお決まりのブラッディー・マリー。 部屋に帰ってラジオを、いや、テレビか?をつけます。 クイズ番組が日課なんです。 映画を観ているぼくも眠くなりはじめます。うとうとしはじめると、次の朝が来ました。 ある朝、理由もなく倒れました。病気じゃないと医者はいいます。でも、かすかな、ひびのようなものがラッキーのこころと生活に影を落とし始めているようなのです。 で、ここからの映画の運びがなかなかいいのです(笑)。 カメをペットにしている友人とのやり取りがあります。相手の、やっぱり、一人暮らしで、いかにも人のいい友人ハワードが「エレファントマン」の監督、まあ、この映画でも監督ですが、デヴィッド・リンチだそうです。そのカメをめぐっての保険屋とのけんかして仲直りします。 心配して、突然、家を訪ねてくれた、朝のコヒー屋のメイドさんに対するラッキーの驚きと、告白と、抱擁があります。 あっちの映画は、こういうシーンが、ホント、素晴らしいんだよなあ。 子どもなのか?孫なのか?の10歳の少年の誕生パーティーにラッキーを招待するマーケットの女主人。キューバ人の家族たちの明るくて和やかな家族パーティーの席で呆然と立ち尽くしてるラッキーの姿が映し出されます。 ああ、観ていて、ハラハラするなあ。 ところが、この不愛想な偏屈老人ラッキーが何故、町の人たちから愛されているのか、このパーティーの結末が教えてくれます。 90歳を越えようかという老人の一人ぼっちの生活。小さな町の気遣いといたわりの人々。お互いの存在そのものを、尊重し合い、その証を確かめ合うかのような、堂々たる態度の付き合い方。 いつものコヒー屋で、元海兵隊の老人と会う。海軍で暮らしたラッキーは「ラッキー」という呼び名の由来や、髪一重で撃墜された特攻機の恐怖を語ります。沖縄戦に従軍した元海兵隊の老人は戦場でのつらい思い出を語ります。 60年前の戦争を、ずっと心の中に持ち続けてきた二人の老人の現在。こういう人の前で、ラッキーの好きな「リアリズム」を、今の人間の都合で言い換えたりすることは不可能ですね(笑)。 誰もいない部屋、誰も歩いていない町。ラッキーがサボテンの林の中を歩いて、向こうに行ってしまう。しばらく行方不明だったカメが、ノッタラ、ノッタラ、スクリーンの下を歩いてゆきます。 「よかった!カメのラッキーはまだ死んでへん。ん?これは始めのシーンか?いや、死んでへん。死んでへん。」 ホッとするとエンドロールが回り始めました。 映画館を出ると、もう暗くなっていて、雨がしょぼしょぼしていた。同居人のチッチキチ夫人のパート先はすぐそこです。ひょっとしたら、そう思って神戸駅にむかって歩き始めました。 歩きながら石垣リンの「崖」という詩が浮かんできました。 戦争の終り、 ちょうど、駅に入っていくチッチキチ夫人の後ろ姿までは見つけました。でも、そこから、見失ってしまいました。結局一人で電車に乗って帰宅しました。東山市場で買った、お土産のたい焼きを差し出すと、パクパク食べながら、いつもと違って機嫌よくシマクマ君のおしゃべりを聞いてくれました。 「えっ、二つとも食べてしもたん?」監督:ジョン・キャロル・リンチ 脚本:ローガン・スパークス 出演:ハリー・ディーン・スタントン:「ラッキー」 デヴィッド・リンチ:「ハワード」 ロン・リヴィングストン:「ボビー・ローレンス」 上映時間:88分 2018/10/23パルシネマno5 追記2023・09・26 ボタン押してネ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.09.26 14:15:09
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