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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2019.07.20
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カテゴリ:映画 韓国の監督
​​​チャン・フン「タクシー運転手 約束は海を越えて」パルシネマしんこうえん
​ 2018年に見た映画で、ぼく自身にとってはベスト10に入るにもかかわらずうまくいえない映画が複数あります。その中の一本がこれ​​「タクシー運転手」です。間違いなく傑作だと思うのですが、どう説明していいのかわからないのです。
 1980年、韓国全羅南道、​光州市を中心に拡がった民主化弾圧事件、所謂「光州事件」を世界に報道したドイツ人のジャーナリストをソウルから光州に送ったタクシー運転手を主人公にした映画でした。ぼくは、何の事情も知らないまま二本立てのパルシネマでこの映画を見ました。
​​ 見終えて、何とも言えない明るい気持ちになりました。それが一番の感想ですね。緑のタクシー運転手マンソプを演じたソン・ガンホという俳優が印象に残りました。​​
​​ 妻には逃げられたと思しき父子家庭の生活と、一人で父を待つわが子を思う心情。マンソプを取り巻く近所の人々とのやり取り。タクシー運転手たち。食事の風景。流行歌を歌いながら運転するマンソプ自身の姿。
 生活するマンソプという人間の描写の面白さが、まず、この映画の肝ですね。
 そのマンソプが、ただ、ただ金のために、こずるく上客を奪います。その結果、出会ってしまうのが、国家とか政治とかいうもう一つの現実でした。
 偶然が気のいい、仕事熱心なタクシー運転手のオッサンを「信じられない現実」へ引きずり込んでゆくのです。客のために責任を果たす。ただそれだけのために知恵をしぼった潜入行。そこで見てしまう「現実」。驚きと恐怖とためらいと勇気。
 もう「金」のためではなくなってしまった必死の逃避行。運転するマンソプの顔に浮かんだ恐怖と半ばやけくそな意地。
 ただの庶民であったマンソプが、信じられないようなカーチェイスに巻き込まれ、やっとのことで約束を果たした途端にただの庶民に戻ります。生活の物陰に姿を消してゆきます。
 今日から、また、ただの生活が始まり、できれば、厄介ごとには巻き込まれたくない。
 ここに描かれている、「生活者の実像」にこそ、この映画の、もう一つのすごさがあると思いました。
 ソン・ガンホの演技のすごさは、演技している印象をただの一度も感じさせることなく、ケチで、欲張りで、人のいいタクシー運転手を演じきったところだと思います。こんな俳優は、なかなかいないと思いました。

​ チャン・フン監督についても、現代韓国の映画事情についても、何も知らないぼくの感想は間違っているかもしれません。でも、この映画には、この映画が撮れることの喜びがあふれています。韓国で大ヒットした理由はその「明るさ」にあるに違いないと思いました。2019・07・15
 監督 チャン・フン
 製作 パク・ウンギョン
 製作総指揮 ユ・ジョンフン
 脚本 オム・ユナ
 撮影 コ・ナクソン
​​​ キャスト
 ソン・ガンホ(キム・マンソプ )
 トーマス・クレッチマン(ユルゲン・ヒンツペーター=ピーター)
 ユ・ヘジン(ファン・テスル)
 リュ・ジュンヨル(ク・ジェシク)
 原題 「A Taxi Driver」 2017年 韓国 137分 2018・11・01・パルシネマno

追記2019・07・15
​​ 半年前に見た映画の感想を書きましたが、じつは、ずっと逡巡していました。僕の生きてきたこの国と、お隣の韓国という国の間には、ここのところ、誰かがわざと煽っているにちがいない、いやな空気が流れています。この空気に対する怒りはずっとわだかまっていますが、映画の感想に、その怒りをぶつけるのは、それはそれで嫌な感じでした。

​​ 今年の三月の月曜日に元町商店街を歩いていて、昔はよくのぞいた古本屋さんに立ち寄ってしまいました。出費に対する警戒もあるのですが、なによりも、際限がなくなるので自分で自分に禁じていたのが「古本屋さんに、ちょっと。」なのです。棚の前に立ってしまうと、やっぱり抑えが効きません。岩波現代文庫になっている岡部伊都子さん「生きるこだま」という本を見つけて、買ってしまいました。そして読み終えました。​​
​ 今思っていることを正直に書き残しておきなさい。岡部さんの文章が、そんなふうに促していると思いました。​
 韓国は日本の植民地統治以来100年ぶりに「言いたいこと」がいえる国になりつつあると、この映画で実感しました。心して、この映画を見るべき時代がやってきているのではないでしょうか。
​​​​​​​​追記2020・02・26
先日、ケーブルTVで上映していた「タクシー運転手」を見ました。戦う学生や仲間のタクシー運転手や、その家族にいい役者がそろっていたことに気付きました。光州の運転手の女将さんは、映画の「焼肉ドラゴン」の女将さんでした。味のあるいい役者たちの映画だったことに、あらためて気づきました。
 で、アカデミー賞の「パラサイト」を見るとその女将さん、イ・ジョンウンが、いわば、パラサイト1号の妻で、お屋敷の家政婦役でした。パラサイト2号はもちろんソン・ガンホというわけで、もうそれだけで笑ってしまう映画でした。
 そんなにたくさん見ているわけではありませんが、現代の韓国映画が社会に対する深い批評性を失わず、明るい映画になっているところが、「すごいなあ」と思います。​​​​​​​
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最終更新日  2023.07.20 18:16:11
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