「黙ってピアノを弾いてくれ SHUT UP AND PLAY THE PIANO」
なんとなくチラシを見ていて気になっって映画館にやってきました。名前も音楽も知りません。
「チリー・ゴンザレスって誰やねん?ピアニストか? 『SHUT UP AND PLAY THE PIANO』ってどういうことやねん?」
暗くなって、やたらしゃべる男が登場しました。ピアニストなのか、向こうのお笑いパフォーマー、まあ、今の日本人の使い方おかしいと思うのですが、「芸人」さんなのか?そう思いながら、ことばが多すぎます。字幕を見ているのに疲れて、うとうとしてしまいました。
目覚めるとさっきの男がピアノ相手に格闘していました。格闘のパターンが何通りかあるようです。髭面も、目つきも、なんだか疲れているように見えます。
「何を思い込んどんねやろ?ちょっとやばいんかな?」
一人で、弾いています。悪くないです。ナイーブで、こういうのセンシティブっていうのかもしれませんね。
誰か相手にやっています。掛け合いというのでしょうか、これはうまいと思いました。ぼくの耳と目でも音楽が楽しいのです。
フルオーケストラ相手に指一本で始めたと思うと、山下洋輔の肘打ちというのがありましたが、この男は平手打ちというか、手のひら全面うち奏法で頑張っています。とうとう、ピアノの上で寝ころんでしまいました。オーケストラのバイオリンだか、ビオラだかの女性が演奏しながら笑っています。でも、バカにしている笑いかたではないんでしょうね、楽しそうです。こういうの、どっちかというと好きなぼくは「いいぞ、やれ!やれ!」という気分です。
ピアノの横にマイクがあります。で、やたらしゃべるのです。
「ラップっていうんかな、これ。それにしても、音楽としゃべりが妙に釣り合っとるな。しゃべっとることは、全く釣り合っていへんのに。さっきの掛け合いも、相手に釣り合うんねんな。不思議やな?耳がええちゅうことかな?」
SHUT UPの意味がようやく解り始めた気がします。
「しゃべらな気がすまんのや。みんな、それ聞きに来てるんや。ただのクラッシクのコンサートちゃうな。けど、音楽やな、確かに。なんか、すごいな。」
音楽は、好きずきなので、誰もが、とは思いません。しかし、ぼく自身は、すっかり目も覚めて、かなり気に入っているのが自分でわかります。ノセられてるということなのでしょね。
最後は客席に、文字通り身を投げ出してしまうパフォーマンスでした。客席でひと暴れして、ステージに戻って、なるほど!そうくるか、という下ネタで、オチを一発かまして映画は終わりました。
外に出ると、秋の夕暮れ。信号機の赤が青に変わるのがくっきり見える気がします。空気が冷たくて、透き通り始めています。
「チリー・ゴンザレスか、ちゃんと名前覚えて帰ろ。」
帰ってきて公式サイトを確認しました。
「これは狂気の沙汰やないで、此の世で正気貫いたら普通こうなるんやで」
こんなことを作家の町田康が書いていて、わが意を得たりの気分になりましたが、考えてみれば、まあ、ちゃんとノセられて帰って来ただけですね。
「まあ、あんたもそういうところあるからね。ああ、そうか、現代の小説家でいえば、町田康やんか、あの人。」
それにしても、ぼくの中では、音楽の新しいジャンル発見でした。まあ、知らないことの方がずっと多いわけですからいちいち感動していては身がもたないのかもしれませんが、これは得しました。
「黙ってピアノを弾いてくれ SHUT UP AND PLAY THE PIANO」
監督 フィリップ・ジェディック Philipp Jedicke
出演 チリー・ゴンザレス Chilly Gonzales / ジャーヴィス・コッカー / ピーチズ / トーマ・バンガルテル(ダフト・パンク)
2018・10・29・シネリーブルno21
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