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ハイファ・アル=マンスール「メアリーの総て」パルシネマしんこうえん
ひさしぶりの、「パルシネマしんこうえん」の二本立て。一本目が「ア・ゴースト・ストーリー」、二本目がこれでした。 「フランケンシュタイン」の映画はたくさんありそうですが、これはフランケンシュタインの生みの親、シェリー婦人こと、メアリー・シェリーの伝記映画でした。 昔読んだ「フランケンシュタイン」の文庫本では、作者名はシェリー夫人となっていたと思いますが、最近の新訳では、光文社古典新訳版も角川文庫、早川文庫もみんなメアリー・シェリーとなっているようですね。彼女の夫パーシー・シェリーという人は、19世紀詩ギリスのロマン派の詩人ですが、読んだことはありません。バイロンとかと同時代の人らしいです。 墓場で本を読んでいる少女のシーンから映画は始まりました。でも、まだ少女なんですね、この子。ここから作家になるまでの長い年月、波乱万丈の人生が待っているんだと思いきや、映画は数年間、たぶん2年とちょっとくらい、ラストシーンは少しのちの時代からの回想でしたが、それを見積もっても5年くらいの時間を映し出して終わったのでした。 驚きは、まず、彼女が「フランケンシュタイン」を書いたのは18歳だったことです。 本屋の娘で、継母から冷たくされて、母が眠る墓場で本を読むのが唯一の慰安であった、今でいえば中学生くらいの少女が、妻のいる詩人シェリーと駆け落ちします。 このとき少女は16歳、詩人が21歳。なぜか、義理の妹クレアが、この駆け落ちについてきますが、彼女は、時の人気詩人バイロンの愛人になり、やがて捨てられます。 メアリーはメアリーで、借金と正妻に追われるシェリーととも逃げまわる生活の中で、最初の娘クララを死なせてしまいます。憎悪と絶望で、シェリーの正妻は自殺します。 こう書いていて思うのですが、今でいえば、「たち」の悪いタレント連中に高校生の姉妹で引っかかった不幸の見本のようなお話が続きますが、見終わった後味が悪いわけではありません。 というのは、19世紀初頭のイギリスの社会、町や本屋の様子、男女関係、ロマン派の詩人の描かれ方、これがなかなか面白いのです。加えて、その後200年「ゴシック・ホラーの原点」のように読み継がれてきた、墓場から生まれてくる怪物の話を書いたのが18歳の少女であること。そして、なによりも、そのモチーフが「あっ」と、意表を突くのです。 カエルの死体に、電流を流すと起こる筋肉の反射を「生き返った」と宣伝して人を集める、当時、流行った見世物がヒントになったようですが、この小説は決して空想科学ホラーではなかったのです。なんと、18年生きてきた少女の、破天荒というか、非人間的な生活の自叙伝だったのです。「非人間的」なんて、概念そのものがなかったことが、映画の語っていることでした。 これには参りました。 ハイファ・アル=マンスールという女流監督が、19世紀初頭のイギリス社会、特に、その時代の女性について焦点を当てた結果、この少女たちを発見したことはさすがだと、感心しました。ついでですが、この映画には「吸血鬼」の登場秘話も出てきます。そのあたりも、面白い人には面白いに違いありません。「ロマン主義」なんて、文学史用語になり果てて、流通していますが、やっぱり一筋縄ではいきませんね。 監督 ハイファ・アル=マンスール Haifaa Al-Mansour 製作 エイミー・ベアー アラン・モロニー ルース・コーディ 製作総指揮 ジョハンナ・ホーガン キャスト エル・ファニング(メアリー・シェリー) ダグラス・ブース(詩人パーシー・シェリー) スティーブン・ディレイン(父ウィリアム・ゴドウィン) トム・スターリッジ(バイロン卿) ベル・パウリー(義妹クレア・クレアモント) ベン・ハーディ (「吸血鬼」の作者・ジョン・ポリドリ) 原題「Mary Shelley」2017年 イギリス・ルクセンブルク・アメリカ合作 121分 2019・06・28・パルシネマno9 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.08.04 22:18:27
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