リドリー・スコット 「ゲティ家の身代金 All the Money in the World」 パルシネマ 珍しく、リドリー・スコットという監督の名前は知っていた。英語で書くとSir Ridley Scott。「エイリアン」の人だ。ぼくが学生だった頃観た映画で、シガニー・ウィーバーという女優さんを一躍スターにしたことを覚えている。最近では、内田樹さんが「映画の構造分析」(文春文庫)で取り上げているのを読んで、思いだしなおしていた、あの作品を作った人だ。でもまあ、よく稼いだからか、作品が立派だったからか、いい年だからか、「サー」という称号がつく人になっているんだ。そんなことを考えていたら場内が暗くなった。
我ながら、バカみたいな話だが、この映画を観終わって、内田樹ならどんな風に分析するのだろうというのが最初に浮かんだ。
この監督の傾向のような気もするけれど、誘拐された息子の母親ゲイル役のミシェル・ウィリアムズという女優さんが、どんどん強く、美しくなっていくという展開で、金持ちのジーさんから派遣された、「交渉しないことも交渉だ」とうそぶくネゴシエーターのチェイス(マーク・ウォールバーグ)も最後には味方に付けてしまって、まあ、息子を取り戻したうえに‥・・・というわけで、なるほどねーと感心して観終わったのだが、こういうふうなのはどう解釈するのかな、内田さんならというのが思い浮かんだわけ。どこかで、解説しないかな?
おしまいの結末は、少し驚いて、そういうふうに財産は管理するのかと思ったけれど、大金持ちのポール・ゲティがケチだとか、その跡取りはバカな薬中だとか、全体としては「ふーん」という気分なのだけれど、ゲティという金持ちのジーさんが、最後に手に入れた聖母子像が誰の絵だったかわからなくて、それが一番心に残ったようなわけだ。
どなたか見終わって気づいた人は教えていただきたい。見ていて、ああ、あれはだれだって思ったのに、最近固有名詞が、みんな代名詞になってしまうんですよ。
なんか貶しているみたいだけれど、なかなか面白い筋運びで飽きないし、あくまでも金を払い渋る金持ちの「金持ちらしさ」も、人生観のようなものもなかなか良かった。あり得ない話だからバカ馬鹿しいけれど、金持ちになるなら、あんなふうがいい。評判は、悪くなるかもしれないけれど。
それに比べれば、母親ゲイルは、いかにも映画の主人公ふうで、かっこいいのだけれど、どこかステロタイプに見えた。でも、まあ、映画だからね。
ところで、この映画は制作時からスキャンダル山盛りらしくて、なかなか話題に事欠かなかったらしい。
マーク・ウォールバーグという人は、撮り直しで150万ドルのギャラをせしめたのに、ミシェル・ウィリアムズは1000ドルほどだったというのが後でわかって、あまりの落差に大騒ぎになったとか。
まあ、違いが極端すぎますね。しかし、大金を払ってるんだなあ。
その中でも、いったん、撮り終わったのに、金持ちのジーさん役のセクハラが発覚して、もう一度撮りなおしたピンチヒッターがクリストファー・クラマーという80歳を越えた超ジーさん。
なんと、この人って、「サウンド・オブ・ミュージック」(1965年)のトラップ大佐だったんですよね。映画を観る前に知っていたら、大喜びで、笑ってみていたかもしれないが、実際は、何も気づかなかった。
まあ、そんなもんなのだろう。でも、50年、半世紀にわたって映画に出続けてるんだからすごいね。
でも、ヨーロッパの男の人って、あんな顔の人がこんなふうになるんだ。何がすごいかよくわからないけど、すごい。
パルシネマを出ると、もう夕暮れ時で、涼しいし、兵庫駅まで歩きながら、運動不足解消のためにも、垂水から歩こうと思いながら、やっぱりバスに乗ってしまった。金持ちにもなれないし、元気な88歳にもなれそうもないね。
監督 リドリー・スコット
製作 ダン・フリードキン ブラッドリー・トーマス
クエンティン・カーティス クリス・クラーク リドリー・スコット
原作 ジョン・ピアソン
脚本 デビッド・スカルパ
撮影 ダリウス・ウォルスキー
美術 アーサー・マックス
衣装 ジャンティ・イェーツ
編集 クレア・シンプソン
音楽 ダニエル・ペンバートン
キャスト
ミシェル・ウィリアムズ(アビゲイル・ハリス:ゲイルとも呼ばれている女主人公)
クリストファー・プラマー(ジャン・ポール・ゲティ:大金持ち)
マーク・ウォールバーグ(フレッチャー・チェイス:交渉人)
ロマン・デュリス(チンクアンタ:誘拐犯)
2017年・133分・R15+・アメリカ 原題「All the Money in the World」
2018・10・06・パルシネマno11
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