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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2019.08.21
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カテゴリ:映画 韓国の監督
イ・チャンドン「ペパーミント・キャンディー」
​​​​​ ​​元町映画館「オアシス」とセットで企画、上映している作品の今日は最終日です。残念ながら「オアシス」は見損ねたのですが、こっちだけでも、まあ、「バーニング」という作品の不可解を解きたいという、一応それらしい目的もあるし、というわけで受付へやってきました。​​
​​「よお、久しぶりやね、元気?」​​​
「お久しぶりでーす!」
​「あのさ、明日からの『ニューヨーク公共図書館』混む?」​
「ああ、たぶん、満席ですね。」
「朝一番で、チケット買える?」
「はい。それだと大丈夫ですね。ありがとうございます。それで、今日は?」
​​​​​​​​​​​​​​​「もちろん、イ・チャンドンやんか。」​
​​​​ で、座って、始じりましたまりました。イ・チャンドン監督「ペパーミント・キャンディー」です。
 どこかの河原で、おじさんおばさん年齢の人たちがバーベキューしています。チョー場違いな男がやってきて、何だか知らないけど、一人で暴れまわりはじめます。この男がこの映画の主人公​​​​キム・ヨンホ(ソル・ギョング)​でした。​​​​

​​ いつの間にか、河原からかかっていた鉄橋をよに登った男は突進してくる列車に向かって絶叫しながら突っ立っています。これが1999年のことであったようです。で、そこから列車からの風景が、どうも逆流しはじめたらしくて、カメラの方向と風景の流れが逆になってきます。「ふーん、そういうことか。」と思ってみていると、案の定時間をさかのぼり始めました。​​
​​​ 列車の前で棒立ちしていた男が、何だかわけのワカラナイ男と女の出来事に遭遇しています。会社の経営者らしいのですが、ちょっとヤ―サンの風情で、殺伐としていて、画面もそっけない。要するに壊れているようです。これが1994年です。
 部屋には妻(?)がいます。男は、仕事場では最悪の拷問装置と化して、そこまでやるかというか、非情のライセンスというか、とにかくめちゃくちゃです。ここでは、なんというか、男は壊れているようです。​1987年​
までさかのぼりました。​​
​ 仕事に就いたばかりの新米の警官が男です。なんとなく予想通りに「汚いこと」にまみれてゆくようです。しかし、ここでも、すでに男は壊れています。​1984年ですね。​
​ 兵士である男がいて、娑婆で待つ恋人がいます。ここで初めて、映画の題名の由来がわかりました。恋人が兵士に差し入れるのが「ぺパーミントキャンディー」、ハッカ飴です。光州事件の鎮圧に出動したへっぴり腰の兵士であった男は「壊れてしまう」経験に遭遇しています。​1980年​です。
 河原にピクニックにやってきた学生たちの中に男がいます。まあ、ちょっと、そこまでもっていきますかと言いたいようなうぶな夢を語ります。​1979年​です。
​​​ ここで映画は終わりました。20年という時間が遡られて謎が解かれました。
ナルホド!
​ それにしても、「壊れた男」になってからの方が主演の男性の「顔」がいいと思うのはどういうことでしょうね(笑)。​​​
 なんというか、とても図式的で、理屈で描いたと感じました。さほど心を動かされた映画ではなかったですね。しかし、この映画が監督イ・チャンドンによって1999年に撮られていたことには、強く引き付けられるものがありました。20年前のイ・チャンドン。彼は何を考えていたのでしょうか。​​​​​

​​​​​​​​​​​​​​ 一つは「バーニング」という、イ・チャンドンの近作の、ぼくにとっての分かりにくさを解くカギを見た気がしたことです。
 勝手な言い草かもしれないが、この監督は「韓国」というアクチャルな社会を生きる人間の「実存」、「生のありさま」に興味があるのであって、そこで描かれる「世界」村上春樹的な「世界」とは微妙にズレてしまわざるを得ないということがあるのではないかということです。
 村上の作品の登場人物たちは、高度に資本主義化してきた社会のなかで、空洞化してしまった「内面」と、それを取り囲む「外部」の真相を、その底に潜ることで見出そうとすることを繰り返しているとボクは感じています。だから、「納屋を焼く」とか「井戸を掘る」というメタファーは実は「日本」という社会に対してこそ有効なレトリックだったのではないかという印象ですね。
 それを韓国で映画にするなら、疲弊した農村の象徴のような廃棄されている「ビニールハウス」を焼くシーンを撮らざるを得なくなるし、登場人物の失踪はアクチャルな殺人事件というサスペンスになってしまう。もう、そこには「春樹の世界」など跡形もなくなってしまっているといっていいのではないでしょうか。
 監督​イ・チャンドン​​「ペパーミント・キャンディー」​で描いているのは、人間から根こそぎ人間性を奪というような、社会の暴力的で直接的なありさまであったとぼくは思いました。そういう現実が、その時代のその社会にはあったということです。
 ​イ・チャンドン​「青春の夢」などという、甘ったるいものは、袋入りのハッカ飴のように軍靴に踏みつぶされてしまう現実の中で、人間はどんなふうに壊されるかを告発しているという印象です。
それは、たった20年前のことなのだ。いまも、忘れることなど不可能なはずだ。
 まあ、そんな叫びのような訴えです。
 それがひきつけられた二つ目の理由でした。2019年の今、ぼくが見ている韓国映画「史実」として「人間を壊す社会」を暴き始めていると感じていますが、彼の映画は、ひょっとするとそれらの映画を作る人々に進むべき道を示しているのではないか、ボクはそう思いました。
「バーニング」の感想はこちらをクリック​してください。
​​​​​​​​​​​​​​​イ・チャンドン「ペパーミント・キャンディー」​​​​​​​​​​​​​

監督 イ・チャンドン  Lee Chang-dong
製作 ミョン・ゲナム  上田信
原作 イ・チャンドン
脚本 イ・チャンドン
撮影 キム・ヒョング
美術 パク・イルヒョン
編集 キム・ヒョン
音楽 イ・ジェジン
キャスト
   ソル・ギョング(キム・ヨンホ)
   ムン・ソリ(スニム)
   キム・ヨジン(ホンジャ)​​​​​​​
原題「Peppermint Candy」
1999年
韓国・日本合作
日本初公開 2000年10月21日
130分 2019・07・05・元町映画館no18 

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最終更新日  2023.06.29 09:43:29
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