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開高健「オーパ!」(集英社文庫)
「百年の短編小説を読む」(「文学の淵を渡る」新潮文庫)という大江健三郎と古井由吉の対談があります。 その中に「一日」という短編をめぐって、今は、もう、亡くなった作家開高健を話題にしているところがあります。 大江 このくだりを読んでて、思わず膝を叩きました。オーパ! そうだ「オーパ!」の、あの文体なのです。 甘い海。迷える海。大陸の地中海。漂い歩く沼。原住民や探検家や科学者たちはそれぞれの眼からさまざまな定義と名を与え、日本人移民はただひとこと「大江(たいこう)」と呼び習わした。 1989年、思えば早すぎる生涯を閉じた開高健。58歳でしたた。今の学生さんたちは、この作家について、名前すら知らないかもしれません。 「輝ける闇」(新潮文庫)・「夏の闇」(新潮文庫)とベトナム三部作と銘打って書き継いた「闇」シリーズも、「花終わる闇」は「書く」ことの苦渋を読者に刻印し、未完に終わりました。 小説に苦しんだ最後の10年、開高は釣竿を片手にあらゆる世界の果てをめぐり、エッセイ「オーパ!」を月刊「PLAY BOY」(日本版・集英社)に連載し、夢のかなわない書斎の釣り師たちを喜ばせました。ぼくは作家の余技だと思っていましたが、今になって考えてみれば本業だったのです。 あの文章にこそ「観察と分析」が果てることのない饒舌と深い含蓄となってほとばしっていたことに、迂闊な読者たちの一人だったぼくは、この年になってようやく気付くのでした。作家が世を去って30年。今、読み直しても全く古びていない文章と、その文書によって描かれた永遠の時間がそこにあります。これは、忘れてしまうわけにはいかない傑作じゃないでしょうか。 若い人たちの中に、この面白さに気付く人がいたら、本当にうれしいですね。(S) 2018/06/23(投稿中の二つの画像は蔵書の表紙写真です。) 追記2023・03・15 大江健三郎の死を知って、大江の5歳年長の作家、開高健のことを思い出しました。彼は1989年、58歳という若さで世を去ったのですが、まさしく、大江と同時代の作家だったと、ぼくは思っています。 上の記事の対談の相手だった古井由吉は、大江より二つ若い1937年生まれでしたが、2020年に世を去っています。そして、誰もいなくなったといういい方がありますが、作品は残されています。できれば、一作でも多くご案内して、それぞれの作家の面白さを伝えられればいいのですが、先は長そうです(笑)。 ボタン押してね! にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.05.01 10:39:21
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