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カテゴリ:映画 アメリカの監督
ロン・マン「カーマイン・ストリート・ギター」シネリーブル神戸
ニューヨークにグリニッジ・ヴィレッジという町があるということくらいは、ぼくでも知っています。 その町にカーマイン・ストリートという小さな通りがあって、そこで「カーマイン・ストリート・ギター」というギター屋さんをやっているリック・ケリーという親父がいるんです。(お店の名前が、こうだったか?ちょっと怪しい) その親父が、フェンダーっていうギター・メイカーの創始者が開発した「テレキャスター」とか「ストラトキャスター」っていうエレキギターがありますね。「ジミ・ヘンのギター」っていうとお分かりでしょうか。あのタイプのギターを、取り壊される街の古材を使って、手作りして売っているわけなんです。その生活の一週間がドキュメントされてるという、それだけの映画です。 その親父さんが一緒に暮らしているのは母親のドロシーと、助手というか弟子というかのシンディの二人です。 ドロシーはキャノンの古めかしい電卓を叩いたり、商品のほこりを払ったり、編み物したりしながら店を手伝っているんですが、90歳は越えているようです。 店の壁に飾られている、おそらく有名なギタリストの写真の入った額縁が、何度直しても、どうしても傾いてしまうことにちょっとイラッとしている毎日を過ごしています。 助手のシンディは、いかにも、今風のオネーちゃんという風情で、アイシャドーのラインがくっきり映るような、ド・アップで登場して、服装とかもド派手なイメージで、とてもギター工房で働いているようには見えないのですが、これが結構泣かせる存在で、リックも気に入っているようです。 ネット系に全く無関心で、どっちかというと好きではなさそうなリックなのですが、シンディは彼の作ったギターの画像をハッシュタグとかつけて宣伝して、「イイネ」が幾つついたとか、喜んでリックに報告したりしています。まあ、そのあたりは、実に、デキル!今風なわけです。 彼女が、作業服に着替えるわけでもなく、ど派手な格好のまま、焼き鏝でギターに装飾画を描いていたりするのを、リックが覗き込んでいたりもするシーンが、案外、この映画の肝だったようです。眼差しがいいんです、この男の。 このお店の一週間ですが、毎日、超大物のミュージシャンがやってきます。彼らはリックのギターを弾きながら、おしゃべりします。 おしゃべりの中で、リックは、ニューヨークのいろんな所から、火事場の教会とか、取り壊される娼館とか、禁酒法時代を生き延びた酒場とか、1850年代の廃材を集めて来てギターのボディを作っていることを語ったりします。 脚本として、作られたシーンだろうなとは思うのですが、たとえば、中指が動かなくなるという障害を抱えたギタリストが、リックにすすめられたギターを手にした瞬間の目の輝きは、どうも、作り事とは思えないのです。 ある日、映画監督のジャームッシュが、ギターを抱えてやってきたのには驚きました。ぼくでも名前を知っている人です。この映画の監督ロン・マンにこの店を紹介したのは彼だそうですが、持ってきたギターの弦の張替えをしてもらっているのには笑いました。 小さな店の椅子に座って、ギターを弾くミュージシャンの語り、それに相槌を打ちながら聞いているリックの眼差し。 まあ、それにしても、この親父も、それを撮った監督も、ただ者ではありませんね。
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最終更新日
2023.12.22 23:01:52
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