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ニテーシュ・アンジャーン「ドリーミング村上春樹」
予告編で目にして「風の歌を聴け」を読みなおしました。とにかく、見なくっちゃという気分でシネリーブルのシートに腰掛けました。今日はいすゞベーカリーのカレーパンがおやつです。ぼくを入れて6人の客が座っていましたが、とりあえずパンをかじっていると始まりました。 木立に向かってカメラが進んで行って、「森」と呼んだ方がいい感じのシーンが映し出されます。 「おや、なんかいるな?」 「かえるくん」でした。「かえるくん、東京を救う」の、あの「かえるくん」ですね。当然、期待は「みみずくん」ですが、残念ながら最後まで登場しませんでした。 「ドキュメンタリーとちゃうのかな?」 ふと、そう思いました。 困惑を打ち消すかのようにというか、たしかにというか、メッテ・ホルムという女性がメインで登場し始めました。 彼女は「完璧な文章」という、村上春樹が「風の歌を聴け」に書きこんだ小説の日本語をデンマーク語に翻訳するのに難儀しています。 日本人とおぼしき男性にこんな質問をします。すると男が答えます。 「パラレルワールドという考え方は、日本では普通なの?」 オイオイ、と思わずのけぞりそうになりましたが、これがこの映画の「地下二階」でした。 「ジェイズ・バー」、「芦屋川」、「レコード・ショップ」、「JR芦屋駅南口」、「神戸の坂道」、「ピンボールマシーン」、「首都高速」、「公園の滑り台」、「青空には白い月が二つ」、そして「かえるくん」。 ぼくは、ちらりと映し出された神戸の何でもない坂道が、「知っているあそこではないか」とか、「お、芦屋駅は南口でないと、この場合、絵にならんなあ」とか、映画の意図とは、おそらく、何の関係もないミーハー気分が盛り上がってしまって、楽しかったのですが、映画は高層ビルの屋上のハッシコに腰掛けた「かえるくん」が東京の夜景を遠望しているシーンで終ります。 そういえば、公園の滑り台にもいたような気がします。ホルムさんが紛れ込んでしまった世界はかなり周到に「村上ワールド」をなぞっていたようです。 「夢を見るために毎朝僕はめざめるのです」(文春文庫)という村上春樹へのインタビューを集めた本があります。なかなか、読みでのある文庫ですがご存知でしょうか? この映画は村上春樹によって「夢に目覚めさせられた」翻訳家、メッテ・ホルムの「夢」をドキュメントした作品だったようです。 蛇足ですが、夢の中とはいえ、彼女の仕事場のニャンコが、これまた実にいいんです。 監督 ニテーシュ・アンジャーン キャスト メッテ・ホルム(デンマーク翻訳家) 書斎のネコ カエルくん 2017年 60分 デンマーク 原題「Dreaming Murakami」 2019・10・29・シネリーブル神戸no35 追記2019・11・02 60分の短いフィルムですが、村上ファンのかたがご覧になられると面白いんじゃないかと思いました。書き忘れましたが、最後は大学だかのホールの舞台のうえ、人の背丈より、ずっと、大きな本のページが開かれているセットの前で、ホルムさんが、対談の相手である村上春樹を待っているシーンでした。このシーンというか、舞台のデザインも一見の価値があると思いました。 ノーベル賞がどっちを向いたというような騒ぎ方ばかりしている、この国のメディアには、絶対に作れない、村上作品に対する「真摯さ」があふれた作品でした。 村上春樹は「世界に僕の作品を待っている人がいることを信頼している」という意味のことを、誰かのインタビューで語ったことがありますが、まさにそれを実感する映画でした。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.19 21:36:47
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