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サム・メンデス「1917 命をかけた伝令」OSシネマズ・ミント
OS系の映画館が苦手です。しかし、流行っている映画はこっちでやっています。そこがむずかしいところですが、先日、ピーター・ジャクソンの「彼らは生きていた」という第一次世界大戦のドキュメンタリー映画をシネ・リーブルで見て、こっちでやっている、この映画が気になりました。サム・メンデス監督の「1917」です。 第一次大戦については、ドイツ側から出征した作家レマルクが「西部戦線異状なし」(新潮文庫)という小説を書いています。この小説の翻訳を読んで感動したのが40年前です。そのころ映画にもなりました。見た記憶だけがあります。それ以来の、久しぶり関心なので、よくわかりませんが、西部戦線というのはドイツからみて西側で、この映画も「彼らは生きていた」も西部戦線での出来事でした。 草原で寝ている二人の兵士がいます。一人がブレイク上等兵、もう一人がスコフィールド上等兵です。 登場人物たちはイギリス軍の軍服を着ています。そこに上官らしき人がやってきて命令を下すシーンから映画は始まりました。 昼寝をしていた二人の若い兵士は長い塹壕を歩いて司令官のもとに連れていかれます。そこで彼らは、ドイツ軍の罠に落ちんととしている最前線へ作戦中止命令を伝える伝令として派遣されます。 ここで面白かったのは、ドイツ軍の意図が「航空写真」で暴かれたことと、司令部から最前線への連絡方法が「電話線」を切られた結果、無線じゃなくて、「人」だったということです。 「飛行機」も「電話」も、第一次大戦の新兵器です。しかし、飛行機から、現地へ直接の連絡はできないし、無線連絡もまだなかったのでしょうか?で、結局、「人間」が危険とたたかうドラマを演じるというわけです。 命令を受けたブレイク上等兵とスコフィールド上等兵が出発します。目標地点はドイツ軍の制圧している地域の約15キロほど向こう側の地点です。刻限は明日の早朝です。遅れれば1600名の兵士がなぶり殺しになる悲劇的作戦が発動されます。 ブレイクには最前線で従軍している兄を救うという動機がありますが、スコフィールドには命令以外の動機はありません。カメラは二人を追い始めます。この執拗に二人を追うカメラワークがこの映画の特徴です。もちろん、見所でもあります。 長い長い塹壕を超え、鉄条網を超え、もぬけの殻になったドイツ軍の長い長い塹壕に潜り込みます。そして、この長い塹壕がこの戦争の特徴です。この戦争は何年にもわたって、対峙したまま塹壕を掘りあうような消耗戦だったのです。 撤退した後の橋や街、農家や家畜がすべて破壊され、殺されているのも、残された塹壕にトラップのように爆薬が仕掛けられているのも、記録にも残されているドイツ軍の作戦です。 見ているぼくは、いつになく冷静です。ピ-ター・ジャクソン監督のフィルムの予習が効いているようです。目の前で走り続けている二人の兵士が遭遇する、目を覆うばかりの危機と悲劇がお芝居に見えてしまうのです。 予想通り、兄を救いたい一心だったブレイクは事故のように戦死し、やる気のなかったスコフィールドが本気になります。一人ぼっちで走り出しスコフィールド上等兵は瓦礫の中で生き延びている赤ん坊と女性を救い、自分自身も九死に一生の危機を潜り抜けて、最後には命令を伝えます。 危険な命令を遂行した英雄は、戦友の兄ブレイク中尉に遺品を渡し、一人、広がる平原を見ながら座り込みます。そして、嫌っていたはずの家族と、おそらくは恋人の写真を取り出すシーンで映画は終わりました。その時、彼は泣きはじめていたと思いました。 ひやひや、ドキドキのシーンは満載です。映画を作っている人の戦争に対する批判の意図も、英雄視される兵士たちの「哀しさ」もよくわかります。 しかし、いつかどこかで見たことがあるという不思議な印象がぬぐえない映画でした。そこがザンネンでした。 劇場が明るくなり、いつにない高校生らしき少年たちの声が聞こえてきます。 「この話、実話なん?」 聞こえてきた会話に、懐かしさが沸き上がってきました。 「いや、これは、やっぱり作り話やで。」 おせっかいで、いいたがりだった、元教員は、さすがに声にはしませんでしたが、そう呟いたのでした。 監督 サム・メンデス ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.05.25 19:05:31
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