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ペアニル・フィシャー・クリステンセン 「リンドグレーン」シネ・リーブル神戸
レイモンド・ブリッグスの「エセルとアーネスト」に感心して、その勢いに乗ってやって来たのがシネ・リーブルの「リンドグレーン」でした。もちろん「長靴下のピッピ」の作者アストリッド・リンドグレーンの伝記映画だと思い込んでやって来たのですが、予想は半分はずれで、半分は当たりでした。 2020年3月初旬の水曜日、もちろん映画館はゆったりのびのびでした。もう、個人試写会のノリですが、ぼく自身は「儲けもの」の気分です。 映画が始まりました。洒落た書棚があって、大きな机が窓に面している書斎が映し出されて、後ろ姿の女性が机に向かい、誕生日プレゼントの手紙の封を切ってゆく手元が映し出されてゆきます。 子どもらしい文面の手紙と絵が出てきます。たくさんの手紙が届いていて、順番にかわいらしい絵がひろげられてゆきます。封を切っている人の正面は、カメラには映りません。とても高い鼻のシルエットが印象に残ります。 「お話しの中で、たくさんの人が死ぬのは何故ですか?」 男の子(?)の声が手紙を読み上げます。その声とともにシーンが変わります。 畑で働く農家の家族の姿が映り始めます。男がいて女がいます。中学生ぐらいに見える少女がいて、その父がいて、厳しい表情の母がいるようです。 しばらくすると新しい手紙を読む声がします。新しい場面が展開し始めます。20世紀初頭のスウェーデンの農村です。北欧の自然の風景は美しく、農作業は厳しそうです。 「ああ、こうして、少女が、やがて、あの部屋に座ってた童話作家リンドグレーンになるまということやな。。」 そう思いながら見ていましたが、映画の中で少女「アストリッドUnge Astrid」は、作文が上手でソーダ水が大好きですが、とうとう、童話作家にはなりませんでした。 学校を出て勤め始めた少女は16歳だったでしょうか。純情な少女は、勤め先の新聞社の社長と恋に落ち、今でいう不倫の子供を産みます。少女はご都合主義の社長を拒否し、篤実で農村的な、信心深い生活を生きる父からも母からも拒絶されたその赤ん坊ラースをデンマークの里親施設に預け、一人働き始めます。 10代で母になった少女を理解したのは、この施設を運営する女性マリーだけでした。数年後、病に倒れたマリーは「愛すればいいのよ。」という言葉を残し、この世を去ります。少女を母だと理解できない小さな少年ラースとアストリッドの暮らしが始まります。 自転車に乗り、ダンスが大好きだった少女が、マリーが恋しい少年ラースの「母」になった姿がチラシの写真です。 少年ラースの手を引いて森を歩く少女の姿が映し出され、子どもたちから贈られた「歌」が老いた作家の部屋に響き渡ります。 映画が終わった時、少女は、まだ「アストリッドUnge Astrid」であって、リンドグレーン氏の妻、アストリッド・リンドグレーンではありませんでした。しかし、「長靴下のピッピ」の読者の子供たちの質問の「答え」はわかりました。 大切なものを次々と失う、一人ぼっちの人生の中で、ただ、子どもたちに、いや、だれかに「こんにちは」と声をかけることを続けてきたからということですよね。 そして子供たちが応えてくれる「奇跡」が、今、ここにあります。 「こんにちはアストリッド!」 蛇足で、馬鹿なことを言いますが、老いたリンドグレーンの横顔のシルエットの尖った鼻は、本物のリンドグレーンにとてもよく似ていました。主演のアルバ。アウグストの演技には好感を持ちましたが、花の高さが違うんじゃないかということが、見ていてずっと気になってしまいました。アホですね。 でも、予想外に、いい映画だったと思いました。映像が美しく、作り方が丁寧だと感じさせているところと、作家の本質のとらえ方が気に入ったからでしょうね。 監督 ペアニル・フィシャー・クリステンセン 製作 マリア・ダリン アンナ・アントニー ラーシュ・G・リンドストロム ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.22 23:23:37
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