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カテゴリ:読書案内「翻訳小説・詩・他」
ジョン・ネイスン「ニッポン放浪記」(岩波書店)
大江健三郎と柄谷行人の「大江健三郎柄谷行人全対話 」(講談社)という対談集を読んでいて、この方のお名前が気になりました。ジョン・ネイスンです。対談の中では大江の「個人的な体験」の英訳者として名前が出てきたのですが、後半ではなんとなくお茶を濁している様子で、具体的には話されていませんでした。 御本人は大変だったでしょうね! というのが一番、率直な感想でした。。現在80歳、日本文学への、今、一度の愛を語って回想を終えています。 ひとりだけ友人ができた。彼自身もはみ出し者だった。やがて私の人生で重要な意味をもつようになる男、野口武彦だ。国文学科の博士課程に入学を認められた数少ない学生の一人で、早稲田の学部生だった時に学生運動のリーダーとして機動隊とやりあったことがある。野口についてはそれくらいしか知らなかったが、実際に会ってみると、政治運動の声高な活動家だったとは想像できない。柔和でしなやかでクールで、どこか両性具有的な格好良さを身にまとっていた。 ジョン・ネイスンと野口武彦氏との交友のさわり部分です。ぼくは本書を読みながら、ネイスンの記述がこの部分にさしかかった時に、思わず 「あっ!」 と声をあげてしまったのです。 何をそんなに驚いているのかと尋ねられそうですね。 この出会いの十年の後に野口武彦氏は神戸大学の教員を務めながら、ジョン・ネイスンの「Mishima: A Biography」を、友情の証であるかのように『三島由紀夫―ある評伝』(新潮社)として翻訳・上辞することが本書には記されています。 ぼくは、その本の翻訳、出版、そして絶版騒ぎのころには 「柔和でしなやかでクールで、どこか両性具有的な格好良いい」と評されている先生の教室に、生意気に煙草なんぞを咥えながら、空っぽの頭を恥ずかしがりもせず座ってボンヤリしていたバカ学生だっただけにとどまらず、その後の数十年間、何の取柄もないバカ弟子としお付き合いが続いているという、まあ、ボクにとっては生涯の師であるわけで、驚かないではいられないエピソードだったのでした(笑)。 若き日の野口武彦氏の、いや、ぼくにとっては野口先生のポートレイト、一瞬の肖像を鮮やかに描いたジョン・ネイスンの一連の記述は、60年代の文学的な青春の記録として、どなたがお読みになっても文字通り爽やかですが、個人的には何とも云い難い思いに駆られる文章でした。こんな、読書体験というものは、そうあることではないのです。 追記2020・04・24 大江健三郎・柄谷行人「全対話」(講談社)の感想はこちらをクリックしてください。 ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.06.03 02:24:33
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