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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.05.05
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ラジ・リ「レ・ミゼラブル」シネ・リーブル神戸

 この題名を見て、ヴィクトル・ユーゴーの小説を思い浮かべない人はいないでしょう。ぼくはそう思い込んでいました。どんなリメイクなのか、それが興味の焦点でした。ガラすきのシネ・リーブルでした。真ん中に陣取って一息ついてもお客さんは増えません。と、映画が始まりました。
 少年が三色旗を首に巻いて、人ごみの中を歩き回っています。歓声が上がって、どんどん人が増えてゆきます。凱旋門に向かって大群衆が進んでゆきます。サッカーのワールドカップでフランスが勝ったんです。このシーンだけでも見る価値があると思いました。
 ドローンが飛んでいて、パリの郊外の高層アパートを映し出します。地上では町を巡回するパトカーの警官とバス停の少女たちがやりあっています。警官の仕打ちを写真に撮った少女のスマホが叩き壊されます。この現場を映しとっていた上空のドローンの存在が、警官と子どもたち戦いの前哨戦を写しています。
 第一ラウンドはライオンです。ロマの巡回サーカス団のライオンの子供が盗まれます。ジプシーといういい方の方が腑に落ちるかもしれませんが、「ユダヤ」とはまた違う「被差別」の人たちですね。
 「ライオン」は百獣の王、「サーカス」の宝、「イスラム」では聖獣、なにより、子どもたちにとっては可愛いいネコ科の赤ちゃん、イノセントの象徴かもしれません。
 警官が追いかけ少年たちが逃げます。威嚇のためのゴム弾銃が水平打ちされ、顏に弾を受けた少年は気絶します。警官対少年の第一ラウンドはあっさり警官の圧勝です。
 第一ラウンドの展開で、映画は町の仕組みを映し出したかったようです。中近東、アフリカ、あらゆる国からやってきた移民が暮らす貧困の街。街の「平和」を維持しているのは顔役のヤクザ、ムショ帰りの教祖、ジプシーのサーカスの団長、そして、仲を取り持つ警官のシーソーゲームのようです。本来、平等であるはずの警官も、なかなか悪辣です。
 第ニラウンドはドローンです。違法な水平打ちのシーンは、覗きの少年のドローンがすべて映しとっていました。警官、町のボス連、ガキ、三つ巴のデータ争奪戦が始まりますが、ヤッパリ警官の勝利です。
 痛い目を見るガキもいましたが、すべて世はこともなしです。警察の日常が挿入され、一人一人の警官の生活が映し出されます。
 ここまで、フランスの下層社会解説とでもいうドキュメンタリー風の味付けです。
 ところが、起こるはずのない第三ラウンドのゴングが鳴ったのです。ライオンの檻にでも放り込んで小便をチビラせて置けばとたかをくくっていた、ガキどもの反乱です。結末やいかに、というわけですが、見る人によって、ここから評価が分かれるようです。
 しかし、子供が、ただ子供というだけで「貧困」と「被差別」と「暴力」の最下層に押しやられている現実を映画はいったいどう描けばいいのでしょう。こう描くしかないでしょう。
 ​ブレイディみかこがイギリスの「ワーキング・クラス」の中学生生活を報告して話題の著書​​​「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)の中に、眉毛のない、最下層の少年、中学生の「ジェイソン・ステイサム」君が歌うこんなラップの歌詞が載っています。​​​​

父ちゃん、団地の前で倒れてる
母ちゃん、泥酔でがなってる
姉ちゃん、インスタにアクセスできずに暴れてる
婆ちゃん、流しに差し歯落として棒立ち

七面鳥がオーブンの中で焦げてる
おれは野菜を刻み続ける
父ちゃん、金を使い果たして
母ちゃん、299ポンドのワインで漬れて
姉ちゃん、リベンジポルノを流出されて、
婆ちゃん、差し歯なしのクリスマスを迎えて
どうやって七面鳥を食べればいいんだいってさめざめ泣いてる
俺は黙って野菜を刻み続ける

姉ちゃん、新しい男を連れて来て
母ちゃん、七面鳥が小さすぎるって
婆ちゃん、あたしゃ歯がないから食べれないって
父ちゃん、ついに死んだんじゃねえかって、
団地の下まで見に行ったら
犬糞を枕代わりにラリって寝てた

だが違う。
来年はきっと違う。
姉ちゃん、母ちゃん、婆ちゃん、父ちゃん、俺、友よ、すべての友よ。
来年は違う。
別の年になる。
バンコクの万引きたちよ、団結せよ。
​​ 燃え盛る火炎瓶を手にした「ライオン泥棒」君の、怒りに満ちた眼差しで映画は終わります。そのシーンは監督に社会批判はありますが、映画の意思表示としてあやふやだと取られたようですが、そうでしょうか。 ぼくは、ぼく自身が「わかったふう」「大人」の都合の眼差しで映画を見ていたことを痛烈に批判されたと感じました。彼らの将来はとか、彼らを追い詰めたものは、とかいう以前に、ここには少年や少女たちの、彼らには何の責任もない「抑圧」があり、怒りがあります。いつの間にか、それこそが、例えば15歳の少年にとって、最も切実な現実であることを見落として、聞いた風なことをいい始めていたのではないでしょうか。
 若ぶっていうわけではありません。しかし、もう、世界中のどこの国にも、こう叫ぶべき時がやってきているのです。
 万国の「ライオン泥棒たち」よ、決起せよ!

​​​​監督 ラジ・リ
脚本 ラジ・リ  ジョルダーノ・ジェデルリーニ  アレクシス・マネンティ
撮影 ジュリアン・プパール
編集 フローラ・ボルピエール
音楽 ピンク・ノイズ

キャスト
ダミアン・ボナール (ステファン:警官)
アレクシス・マネンティ (クリス:警官)
ジェブリル・ゾンガ(グワダ:警官)
イッサ・ペリカ (イッサ:少年)

アル=ハサン・リ(バズ:少年)
2019年 104分 フランス 原題「Les miserables
20200313シネ・リーブル神戸​no52

追記2020・05・05
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」​(新潮社)の感想は題名をクリックしてみてください。​
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最終更新日  2024.06.05 22:52:14
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