【BookCoverChallenge no3】
和田 誠「装丁物語」(中公文庫)
【7日間ブックカバーチャレンジ】(3日)(2020・05・21)です。
今日は2020年5月21日、金曜日。三日目です。一日目が「本を焼く話」、二日目が「本の印刷の話」でした。今日も「本を作る話」です。一日目に書きましたが、あの日、垂水の「流泉書房」で購入した二冊の本の、もう一冊がこの本でした。
「本」がお好きなら間違いありません。和田誠ファンも必携です。もともと白水社のUブックシリーズにあった本ですが、中公文庫の2020年2月の新刊の棚に並んでいました。
和田 誠「装丁物語」(中公文庫)
以前、このブログでいせひでこさんの絵本「ルリュールおじさん」(理論社)を紹介したことがあります。訳せば「製本屋のおじさん」でした。
ヨーロッパにはルリユールreliure、英語ならブックバインディングbookbindingという仕事があるそうです。
ペーパー・ナイフという文房具がありますが、封書の封を切るのが用途のようになっていて、気障なインテリが趣味の文房具で揃えて、喜んでいそうな道具ですが、本当は「本」のページを切る道具だったことはご存知でしょうか。
彼の地では新聞や書籍は裁断・表装されずに販売されていて、購入者が自分でページを切り、表紙やカヴァーをつけたものだったらしいのです。そこでプロの装丁家が登場するわけで、それがルリュ-ルです。
映画とかで、ヨーロッパの図書館とかが映し出されると立派な革装の本がずらりと並んでいたりしますが、それぞれの本がオリジナルに製本されていて、お金持ちで教養があることのシンボルだったんですね。
日本では考えられませんが、書庫は独特の匂いがしていたに違いありません。図書館の閲覧棚の本には鎖がついていたという話も、どこかで読んだことがあります。
近代になってペーパーバックという形の本がヨーロッパで流行ります。岩波新書が真似たといわれているペンギン・ブックスなんかがそうですが、製本なんかする余裕のない貧乏な学生とかが増えてきた本の需要の結果らしいですね。新書というのは、つまりは、表紙のない本なわけです。
話しが飛びますが紙の発明は紀元前の中国らしいですが、パピルスとか竹簡とかは紙ではありません。ヨーロッパでは羊皮紙という、羊の皮をなめしたものが紙の代わりだったようです。
東洋の竹簡・木簡では製本なんてありえません。紐で繋いで巻いておくんですね。漢字で一巻、二巻と本を数えるのはそのせいでしょう。中国に大雁塔っていう五重塔のような建造物がありますが、塔のそれぞれの階の部屋は風通しがいいので、そういう仏典の巻物の置き場だったらしいですよ。そう考えれば革装の製本の歴史はヨーロッパの伝統ですね。
話を戻します。現代のぼくたちの国では「装丁」は出版社の仕事です。で、「装丁家」和田誠さんの話です。
本来はデザイナーというべきなんでしょうかね。でも、映画監督だし、エッセイストだし、平野レミさんの亭主だし。去年の秋から、過去形で言わないと失礼な存在になってしまったのが哀しいので、すべて現在形で書きます。
「本」に関していえば洒落たエッセイの書き手だし、稀有な読み手だし、装丁家だし、挿絵画家だし、もちろん、製本だってやったことがありそうだし。「マルチ」というハヤリ言葉がありましたが、その「マルチ」和田誠が「本」の「装丁」について、「そうてい」は「装幀」ではなくて「装丁」が正しいというところから語り始めて、ロットリング、字体、紙、絵の具、写真、えーっとそれからという具合に、原稿がやってきて「本」になるまで、交渉から取材、道具から素材、端から端まで語りつくしているのがこの本です。
ロットリングってわかりますか、1970年代くらいから製図用に使われた筆記具ですが、ぼくらはこれで「ビラ書き」をした最初の世代です。線の太さが一定していて、謄写版で印刷したときに、へたな字がちょっと美しく見えるんです。
ああ、それから、この本ではデザイナー仲間の横尾忠則にはじまって、村上春樹、丸谷才一、つかこうへい、星新一、谷川俊太郎、その上、和田家のかかりつけの小児科医毛利子来まで、それからえーっと、というふうに、本づくりで出合った人の紹介があって、それで、次は、という調子で読んでいけます。
その次には、「単独飛行」、「頼むから静かにしてくれ」、「ハリウッドをカバンにつめて」、「ユリシーズ」、「コスモポリタンズ」とか、「『アフリカの女王』とわたし、またはボギーとバコール、そしてジョンヒューストン。はじめてやってきたアフリカでわたしの頭はどうにかなってしまいそうだった」なんていう長い書名まで、書名と表紙とその本のデザインの工夫が語られています。ところで皆さん、ここに挙げた書名の作者わかりますか?(答えは一番最後)
もちろん、和田誠のおしゃべりですから、映画の本の話もタップリ出てきますが、招待してくれた友人と重なるので今回は割愛して、このあたりで話を終えたいと思います。
そうそう、解答欄ですね。
「単独飛行」ロアルド・ダール:早川文庫、「頼むから静かにしてくれ」レイモンドカーヴァ―:新潮社、「ハリウッドをカバンにつめて」サミー・デイビス・ジュニア:早川文庫、「ユリシーズ」ジェームス・ジョイス:集英社文庫、「コスモポリタンズ」サマセット・モーム:ちくま文庫、「『アフリカの女王』とわたし、またはボギーとバコール、そしてジョンヒューストン。はじめてやってきたアフリカでわたしの頭はどうにかなってしまいそうだった」キャサリン・ヘプバーン:文春文庫
それでは次回は4日目です。どうぞお楽しみに。「お楽しみはこれから」ですよ(笑)。【BookCoverChallenge (no1)・(no2)・(no4)】へは番号をクリックしてみてください。
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