アニエス・ヴァルダ「ラ・ポワント・クールト」元町映画館
緊急事態宣言発令の直前の、元町映画館で、ぼくはアニエス・ヴァルダの3本立て特集を観ました。この映画が1955年に撮られたヴァルダの長編デビュー作だそうです。「ラ・ポワント・クールト」は舞台になっている港町の名前だそうですが、「岬の先」くらいの意味のようです。
チラシの中ほどにある男の横顔と女の正面を向いた顔が直角に交差している写真がありますが、このモノクロ映画の一シーンです。
現実に、二人の人間がこのような重なり方をするシーンは十分あり得ますが、この角度で、この重なりを見ると意識することはよくあることとは言えないでしょう。ここに、若き日のアニエスがいるわけです。
70年代の学生たちは「これがヌーベルバーグだ!」と吹き込まれたことを鵜呑みにして、フランスのヌーベルバーグと呼ばれる監督たち、ゴダールやトリュフォーといった人たちの作品に飛びつき、憧れるために憧れたわけですが、何処がヌーベルバーグなのか解っていたわけではなかったということがよく解りました。
今見ても、映像の作り方が斬新なのです。立ち上がり始めた「物語」に亀裂を入れるかのような、こんなシーンが突然現れます。たとえばこのシーンは先ほどから続いていた、二人の会話のシーンの一部なのです。
ここだけ、ストップモーションで写真が挿入されているような印象とともに、見ている側の意識の中で、ようやく立ち上がりかけていた男と女の心理に、新たな陰影を残します。
映画.com「ラ・ポワン・クールト」フォトギャラリー
映画全体には、さしたるドラマがあったとは思えません。鄙びた港町がドキュメンタリーなタッチで素描されていて、それはそれで飽きないのです。飽きないといえば上の写真のようなシーンです。いいでしょ。しかし、見ているぼくにはこの港町に、主人公(?)の二人がいる理由がわかりません。
どうしても、意識はそこを追うわけです。が、結局よくわかりませんでした。にもかかわらず、ただ事ではなさそうな印象だけは残るのです。
結局、女はパリに帰ります。見ているぼくは、あまりなアンチクライマックスにため息をつくという結果でした。
にも関わらず、この映画は記憶に残りました。ぼくはあまりそういう見方をするわけではないのですが、ストーリーではなく、映像の面白さです。
彼女はヌーベルバーグの祖母と呼ばれているらしいのですが、何故、祖母なのかは知りません。が、確かにここには「新しい」ものがあると思いました。
さあ、意味不明な感想ですが、アニエス・ヴァルダをどこかの映画館で見せてくれる企画があれば、ぼくは必ず駆け付けますね。それは確かです。
監督 アニエス・ヴァルダ
編集 アラン・レネ
キャスト
フィリップ・ノワレ
シルビア・モンフォール
1955年80分フランス原題「La Pointe Courte」
2020・04・07元町映画館no43
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