河崎秋子「土に贖う」(集英社)
沖縄のコザ暴動を書いて唸らせてくれた真藤順丈が腰巻で戦慄しているのを見て興味をひかれて読みました。
河崎秋子さんの「土に贖う」(集英社)という小説集です。新田次郎文学賞受賞作です。
羊飼いの小説家だそうです。プロフィールに生まれは1979年、北海道別海町とあります。お若いですね。
「で、別海町ってどこ?」
いうわけで小説を読む前にグーグルマップを覗き込むと、ありました。納沙布岬とか根室とかのあたりですね。「ベッカイ」町と読むようですね。アイヌ語でしょうか。
むかし「ムツゴロウ」さんの動物王国で知ったあたりでした。神戸から想像するだけですが、「北の果て」、「流氷の海」、「知床のぉ岬♪」、と思い浮かべながら、「北の国から」で唐十郎が氷の海から帰ってくるシーンを思い出して笑えました。
北の果ての牧場で羊か、牛か、馬もかもしれませんを、そういうのを飼っている女性が「北海道」を描いていました。なんというか、「北海道」ですね。
養蚕、蹄鉄、薄荷、ミンク、エトセトラ。札幌、根室、北見、江別、エトセトラ。
七つの仕事をめぐって、七つの「土地」を舞台にした短編
が収められていました。
読みながら「地誌」という言葉が思い浮かんで、
ああ、これは「北海道」の近代の「地誌」を小説という形式で描いているのだ
ということに気付きました。
真藤順丈が評価したのは、その点だったと思います。なによりも、ほかのどの土地でもない、「北海道」を描いているところが、この作品集の肝ではないでしょうか。
最近ハマっている「ゴールデン・カムイ」という人気漫画があります。壮大なドラマが、北海道という土地の「歴史」や「自然」、そこから切り離せない「アイヌ文化」と「和人文化」のぶつかり合いの上で展開しているスペクタクルです。こちらはあくまでもマンガ的デフォルメの世界です。
それに対して「土に贖う」は、北海道だからこその「自然」と「近代産業史」を生きた普通の人間を描こうとしているところが評価されているのでしょうね。
残念ながらというべきなのか、作品は「地誌」としての「リアル」に、小説としての「ドラマ」が負けている印象でした。作家が結論ありきで作品を書いているのではないでしょうか。
最近、いわゆる「オチ」に向かって構成されているかに見える作品が増えましたが、この作品集に収められている七つの作品を読み進めながら、三つ目くらいからだったでしょうか、同じ金太郎飴を嘗めさせられている感じがし始めてしまいました。
個人的な好みの問題なのかもしれませんが、「ゴールデン・カムイ」というマンガの荒唐無稽で八方破れな面白さに、この作品集は「小説」として及ばないなというのが結論でした。まあ、比べる必要は全くないのですが。
追記2020・06・02
真藤順丈の「宝島」・野田サトル「ゴールデンカムイ」の感想は、そえぞれ題名をクリックしてみてください。
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