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カテゴリ:読書案内「昭和の文学」
「100days100bookcovers no17」(17日目)
新田次郎「孤愁 SAUDADEサウダーデ」(文藝春秋) 初めての参加、遅くなりました。他の皆さんと違って本にまつわる引き出しがなく心細いのですが、それを前提にぼちぼちとご一緒させていただきたいと思います。どうぞ、お手柔らかに。 さて、私事ですが昨年の3月で定年退職、ご奉公から解放され「無職」の身になりました。旅をすることと本を読むこと、そしてもう一つの目的についてはおいおい語ることとして…。結局暇なような忙しいような1年の中で、旅の目的のみ達成できたように思います。 ちょうど昨年の今頃に、日本各地と済州島を巡る8日間のクルーズ旅行を楽しみました。2月に話題になった豪華なダイヤモンドプリンセス号と違い、リーズナブルでカジュアルな、私の「身の丈」に合ったクルーズでした。イタリア船籍だったので、在職中からEテレでイタリア語講座を見て、ガイドブックも読んで、さも本国に旅にいくようなつもりで楽しみにしていました。それが最近の私のイタリアとのご縁です。 マレルバという作家、映画「木靴の樹」、イタリアの「ネオリアリズモ」…福井あおいさんの愛するイタリアや須賀敦子の「ミラノ 霧の風景」と比べると、なんと陳腐で軽薄なことかと情けないのですが、ようやく「時間」を手に入れた私にとって、イタリアに浸る楽しい時間でした。 クルーズ船の実際は、グローバルな世界経済を実感させる一面もあり、大変興味深く勉強になりました。そのように昨年は台湾や沖縄、南京や桂林、そして日本のあちこちに旅をし、風景や人との出会い、歴史や文化を五感で感じ、それに関する本を読んだり小文にまとめたりしていくということを繰り返した1年でした。 今回選んだ本は、私が3月に旅したポルトガルの関連本です。1年の旅の最後にその国を選んだのは、港町ポルトにある世界で最も美しい書店「リヴラリア・レロ」に行きたいと思ったから。 そして、「大航海時代の栄華とその後の衰退を経験し、同時にイスラムやキリスト教などの文化の多様性を今に伝え、心豊かに暮らすポルトガル」から学びたいと思ったことも理由のひとつです。 「(経済)成長」第一と邁進する日本が疎ましくて…。新型コロナウイルス感染拡大のさなかの9日に出発し17日にサバイバル帰国を果たしましたが、その後の世界的な国境閉鎖を考えると、迷いながらも敢行できてよかったです。 ポルトガルに関わる本を旅に前後してずいぶん読みましたが、ふとしたことで読もうと思って図書館で予約した新田次郎の「孤愁 SAUDADEサウダーデ」が手元に届いた日に渡されたSIMAKUMAさんのバトン。福井さんの翻訳した童話を、そして悲しい事実を受け止めるのに少しの時間と気持ちの整理が必要でした。 イタリアからポルトガルに、そして「孤愁 」につながるように勝手に感じたのです。新田次郎を今まで読んでいたわけでもありませんし、実はこの本は執筆中に急逝した父の小説の後半を息子である藤原正彦が書き継いで完成させたものですが、今回は父の執筆部分のみについてコメントしたいと思います。 「孤愁(サウダーデ)」とは、「失われたものに対する郷愁、哀しみや懐かしさなどの入り混じった感情」であり、ポルトガルに生まれた民俗歌謡のファド (Fado) に歌われる感情表現といわれます。ポルトガルギターの哀切な響きも前から大好きだったので、ファドをポルトとコインブラで聴きました。リスボンのアルファマでも聴くつもりでしたがコロナ騒動でそれはかないませんでした。ポルトガル語で挨拶程度はできるようになりましたが、ファドの歌詞は到底理解できず、サウダーデも私なりの感覚でしか理解できていないのですが…。 作品の内容は、ポルトガルのリスボンで生まれ、マカオ、神戸で軍人、外交官として生きたモラエス(1854~1929)の生涯を描いたものです。モラエスはマカオで暮らした女性と添い遂げることができず、日本人女性よねと結婚し、最後はよねのふるさと徳島で生涯を終えるのですが、異国に根を張りついに帰ることが叶わなかった故郷ポルトガルへの想いを抱き続けるのです。 数学や語学を得意とし、生物学や文学を愛し、ぶれることなく政情不安な激動の時代を生きていく姿は、気象庁で勤務しながら山岳小説や歴史小説を執筆した新田次郎自身と重なるように感じました。 美しい自然、文学や感性を取り上げるだけでなく、日清戦争や日露戦争に突き進んでいく日本を客観的・批判的に捉えるモラエスを描く新田の執筆部分と異なり、息子が執筆した部分から感じる愛国主義的な匂いに耐えられず、最後まで読み終えることができるか自信はないのですが…。 作品の多くの舞台が神戸です。モラエスが朝いつも散歩にでかける布引の滝、諏訪山公園、ポルトガル領事館のある居留地や後に移転する今の北野界隈、岡本の梅林や須磨の海岸、六甲も…。思いがけず懐かしい場所を巡ることができたのは、福井さんが導いてくれたようにも思いました。 支離滅裂な初回でしたがお許しを。次はSODEOKAさんになるのでしょうか。よろしくお願いいたします。(N・YAMAMOTO2020・06・08) 追記2024・01・20 ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.25 20:41:59
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