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「100days100bookcovers no18」(18日目)
小泉八雲『怪談』(平川祐弘:訳/河出書房新社) 前回YAMAMOTOさんが取り上げられた『孤愁 サウダーデ』で、その登場人物、モラエスを知ったとき、つぎに取り上げる作者はすぐに思いついた。 というか、ひとりしか思いつかなかった。西欧から来日して日本人と結婚し、日本で生涯を終えた作家、ラフカディオ・ハーンだ。コメント欄でその名が出ていることにすぐに気づいたけれど、ここは許してもらおう。 『怪談』小泉八雲(平川祐弘:訳/河出書房新社) さっそくラフカディオ・ハーン、すなわち小泉八雲の『怪談』を図書館へ借りに行った。「耳なし芳一」、「狢」、「轆轤首」、「雪女」などの話はよく知っているけれど、『怪談』そのものは読んだことがない。初読である。 八雲はギリシャに生まれたが、その後、父の故郷アイルランド、フランス、イギリス、アメリカ、西インド諸島マルティニーク島と移り住み、40歳で来日。松江で小泉節子と結婚してからも熊本、神戸と移って、最後は東京で亡くなっている。 ガルシア・マルケスのときにも同じようなことを書いたけれど、まさしく放浪の人生だ。 在日期間は意外に短く14年。その間に結婚して三男一女をなし、各地の学校で英語教師をしたのち東京帝国大学の英文学講師を務め(ちなみに、八雲の後任は夏目漱石)、その合間に13冊の著作を書いている。日本に来る前にはアメリカで長年新聞記者をしている。人の何倍もの濃密な人生を、54年で駆け抜けたのだ。 『怪談』は、八雲が日本での見聞や体験を西洋の人々に伝える目的で、英語で書いた外国語の文学である。だから翻訳によって読後の印象は多少違うかもしれないけれど、この平川祐弘訳は文章が明瞭で読みやすかった。 「耳なし芳一」や「雪女」など、すでによく知っている話は、中に出てくるセリフまでがほぼ記憶通りで、しかもそれが映像とともに甦る。絵本か童話で読んだのかもしれず、それ以後もどこかで耳にしたかもしれない説話の「セリフ」は、何年経っても記憶の中で変質することのないほどシンプルなものだったということだ。シンプルなほど、怖さは際立つ。 ところで、『怪談』を読んだおかげで、面白い発見があった。 十数年前に松江に旅行して「小泉八雲旧居」に立ち寄ったとき、昭和7年にここを訪れたという俳人・高浜虚子の句碑を見かけた。 食はれもす 八雲旧居の 秋の蚊に 虚子 どうして「食はれけり」ではなく「食はれもす」なのか。どうして「八雲旧居の秋の蚊になら食われもしよう」とまで詠んだのか。 並はずれて美しい場所で、驚くばかりに珍奇である。一木一石も古い理想によって形づくられたものばかりだ。そんな古い美の規範はもはや現存する人の脳裡には存在しないものである。 とまで書いている。 ボタン押してね! ボタン押してね! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.26 20:41:13
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