ナショナル・シアター・ライヴ 2020
アンドレア・レビ「スモール・アイランド」神戸アートヴィレッジ
第2次世界大戦から1948年にかけてのイギリスを舞台に、英語教員になる夢を抱いて植民地ジャマイカから宗主国イギリスに旅立つ女性ホーテンスと弁護士を目指す男性ギルバートという二人の若者と、リンカンシャーの「農民社会」のしがらみから逃れたい一心で、「紳士」である銀行員の男性と結婚した、牛飼いの農民の娘である女性クイニーの3人の苦難の人生の物語でした。
ジャマイカという国は、ボルトとかパウエルという陸上競技のスプリンターか、ボブ・マーリーのレゲエという音楽のイメージしかありませんでしたが、1961年に独立を果たすまで、イギリスの植民地国家であり、先住民たちは絶滅し、奴隷として「移入」されたアフリカ系の「黒人」が90%以上を占める社会だそうです。
「スモール・アイランド」という題名は、まず、二人の若者が生まれ育った「ジャマイカ」というカリブ海の島を指すのですが、やがて、彼らが憧れた「イギリス」本国をも指していることが明らかになります。
最後に、このお芝居を見終わった人たちは、己の所属する「階級」や「人種」を「常識」として、「他者」を排斥することで、一見、平穏な生活を送っているこの「場所」こそが、「スモール・アイランド」と名指されていることに気付くことになります。
リア・ハーベイとガーシュウィン・ユースタシュ・Jr.が演じるジャマイカからの移民の二人の熱演も素晴らしいのですが、エイズリング・ロフタスの演じるクイニーの大胆で、コミカルな演技が印象に残りました。なにせ、舞台上で赤ちゃんを産み落とすのですからね。
このお芝居でも、印象に残ったのは「音楽」でした。おそらく、ジャマイカの民俗音楽なのでしょうね、中米風なエキゾチズムもありますが、舞台のテンポとムードによくマッチしていました。
ブレイディ・みかこの著作や、映画「レ・ミゼラブル」が活写するヨーロッパの伝統社会の「歪み」に鋭く切り込みながら、「人間」の存在の「肯定性」を美しく描いているこういうお芝居が上演されている、ヨーロッパ文化の分厚さをつくづく感じた舞台でした。
演出 ルーファス・ノリス
作 アンドレア・レビ
翻案 ヘレン・エドムンドソン
キャスト
リア・ハーベイ(ホーテンス)
エイズリング・ロフタス(クイニー)
ガーシュウィン・ユースタシュ・Jr.(ギルバート)
2019年・207分・イギリス 原題「 Small Island」
2020・08・17・神戸アートヴィレッジセンター
追記2020・08・23
ブレイディ・みかこの「子どもたちの階級闘争」(みすず書房)・「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)、ラジ・リの映画「レ・ミゼラブル」の感想はこちらからどうぞ。
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