常盤司郎「最初の晩餐」パルシネマ
我が家の同居人とかピーチ姫には、あまり映画を見ていなかったシマクマ君ごときには口出しができない
「絶対的スター俳優」
がいます。
昨日、今日、ちょっと、映画館を徘徊しだした身としては、えらそうに何か言うのはためらわれるわけなのですが、例えば、先日のジョニー・デップとか、邦画の俳優でいえば窪塚洋介君もその一人です。
パルシネマのプログラムを見ていシマクマ君が、その窪塚君をはじめ、まあ、シマクマ君にはほとんど初対面の方々なのですが、名前を聞いたことのあるキャストが揃っていたので、チッチキ夫人におずおずと声をかけてみました。
「最初の晩餐って、面白そうやけど、行きますか?」
「窪塚君が出てるやつでしょ。見たよ。斉藤由貴とか、戸田恵梨香やろ。」
「がーん!」
一体、いつご覧になったのでしょう。そういえばピーチ姫がチッチキ夫人を誘っている時があったような気もしますが。
というわけで、ひとりで酷暑の炎天下をとぼとぼ歩いてパルシネマの二本立てにやってきました。
1本目に「お料理帖」を結構、納得して見終えて、外出券をもらって、一服しに炎天下に出て(ほんと、アホですね!)、戻ってきての二本目でした。
ホールの半分の灯りが消された薄暗い食堂で、若い男女が向かい合ってラーメンをつついています。面白くない空気が漂っているなと見ていると、食堂の従業員から
「もう閉めるから、早くして。」
というとどめのセリフが飛んできて、二人は代金を置いて立ち上がり、食べ残したラーメン鉢が映し出されます。
中々、「映画」らしい始まりでした。悪くないですね。見ているこっちも不安になります。
末期癌を宣告されていた父親が病院で亡くなって、自宅に遺体が戻って、親戚が集まり、通夜の儀式があり、嵐の夜があり、一夜明けて、葬儀があり、焼き場があり、晴れ上がった空のもと遺骨を抱えて東家の面々が帰宅してきます。
そこに、昨日からの一泊二日、東家で起こったのあらゆる事件に遅れて一人の女性がやって来ます。次男の染谷将太の恋人ですが、彼女が持ってきた「牡丹餅」を「そういえば、父親の好物は牡丹餅だった。」と納得しながら染谷君が頬張るシーンで映画は終わりました。
要するに
「食い物」の映画
だったといってもいいと思います。「食い物」シーンのメインは題名で「晩餐」と呼ばれている、通夜のふるまいのお料理が「目玉焼き」で始まり、「すき焼き」で終ります。まず、この設定が「映画的」で、面白いと思いました。
母であり、喪主である斉藤由貴によって調理された、それぞれのお料理で想起される風景によって、ある家族の物語が語られるという映画でした。
かなり無理のある設定もありますが、一人一人の俳優の存在感のある演技に堪能しました。
特に、不満といら立ちの「塊」と化した長女を、見事に表現した戸田恵梨香という女優さんの演技は見ごたえがありました。珍しく名前を憶えそうです。ぼくとしては「キングダム」の長澤まさみさん以来、二人目ですね。
夜になり、一段と激しくなってきた嵐とともに登場した窪塚洋介君も格好良かったし、何にもしゃべらない斉藤由貴と永瀬正敏の夫婦という設定も悪くありません。
主役と思しき染谷将太君は、「君の鳥は聞こえる」で一度、出会ったことがありますから(クリックしたら感想書いてます)、多分これが二度目で、どことなくあやふやな末っ子ぶりは合格でした。
ただ、見終わって残念だったのは、斉藤由貴さんが演じる母親に、染谷将太君と戸田恵梨香さんの姉弟が、兄の窪塚君が出ていってしまった、あの時からずっと
「謎」として抱え込んでいる「家族」の核心
について、なんだか、答えのようなものを、かなり丁寧に語らせてしまったことですね。
物語を理解したり、納得するための展開として必要な場面なのですが、ここまで、あんなに
「映画」的な謎に満ちた映画
だったのですが、このシーンで「なるほどそうか」というふうに解決のつく、まあ、どこかありきたりな
「ヒューマンドラマ」
にしてしまったのではないでしょうか。
あのシーンが無ければ、今度は見ている人が「わけがわからん」といいそうですから、まあ、無理を承知で思うのですが、あの場面で監督が言いたかったことが、セリフではなく、映像として表現されていれば、この映画は「傑作」だったのになあ、と返す返すも残念に思ったことでした。
しかし、邦画も捨てたものではありませんね。子供時代の東家の人たちもとてもよかったですよ。拍手!それが素直な感想でした。
監督 常盤司郎
脚本 常盤司郎
撮影 山本英夫
照明 小野晃
録音 小宮元
編集 常盤司郎
音楽 山下宏明
キャスト
染谷将太(東家次男:東麟太郎)
戸田恵梨香(東家長女:北島美也子)
窪塚洋介(東家長男:東シュン)
斉藤由貴(母:東アキコ)
永瀬正敏(父:東日登志)
玄理(麟太郎の恋人:小畑理恵)
森七菜(東美也子:少女時代)
楽駆(東シュン:青年時代)
牧純矢(東麟太郎:少年時代)
外川燎(東麟太郎:少年時代)
2018年・127分・日本
2020・09・04・パルシネマno31
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