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カテゴリ:読書案内「昭和の文学」
「100days100bookcovers no27」(27日目)
『愛の手紙~文学者の様々な愛のかたち~』日本近代文学館編 (青土社) この企画もやっと4分の1を超えましたね。まだ先は長いので気楽に行こうということで…。 DEGUTIさんのシリン・パタノタイ『ドラゴン・パール』からSIMAKUMAさんの彭見明(ポン・ジェンミン)「山の郵便配達」を受けて、27作目を選ぶのにずいぶん悩みました。 あれこれ触手を伸ばし、「郵便配達」「手紙」「山」「犬」「中国」というワードから書簡小説まで…。本棚(ずいぶん片付けたのであまりありませんが)を探し、記憶をたどり…。候補を3つに絞ったあとで、冒頭に書いたように「気楽に行こう」と、やっと着地できました。だってまだあと73回、単純に5人で割って14回ほどあるんだから、今回取り上げなかった候補はまたどこかで…。 さて、あれこれと考えた中で『愛の手紙~文学者の様々な愛のかたち~』日本近代文学館編 (青土社)を引っ張り出してきました。2002年の発行直後に買ったものです。表紙の絵葉書の少年少女たちのあどけない写真にまず目を引かれますが、空間を埋める文字が想いを表しています。これは有島武郎が結核で入院している妻安子宛てに送られた幾百通もの手紙の一部だそう。 文学作品が公表を前提としているのに対し、手紙は特定の人宛に書かれるものですから、手紙からは文学者の私生活や人柄に触れることができます。特に愛の手紙ですから、情熱的な、あるいは苦悩にみちたものもあります。宛先は愛する人へ、妻へ、家族への3部に分けられていますが、どれも素晴らしい書簡文学となっています。電話やメール、ラインで文字や絵文字、スタンプで気持ちを表現する今の時代を知ったら、文豪たちはびっくり仰天することでしょうね。 このたびこの本の33人の文学者の手紙から、先週土曜日に記念館の前まで行ったというご縁で谷崎潤一郎のページを紹介しましょう。昭和8年に根津松子に宛てた毛筆でしたためられたもの。「御寮人様」と呼び、既婚者同士の距離感を持ちながら読み取れる松子への感情は、さすが谷崎ですね。 昭和10年に結婚することになるふたりのことはここでは省きますが、この2年ほどの間の恋文は、のちに松子夫人が当時を回想し、自家製の雁皮の原稿用紙に、 「行間も、小さい升目の空間にしても、いさゝかの乱れがなく、清らかで、情味がたゞよふてゐる」と述べているように、思いを成就させるのに大きな役割を担ったことでしょう。 華やかな恋と対照的に、この時期の谷崎は作家生活の中でも最も貧しい時期にあったと、「谷崎記念館だより」の学芸員エッセイに書いてあります。隠れ家のような二人の芦屋打出の家(現「富田砕花旧居)での貧窮のなかで、源氏物語の口語訳「谷崎源氏」の執筆が始まったとも。高校時代の古典の先生が、源氏物語の授業の時に必ず「谷崎源氏」の口語訳のプリントを配布してくれたので、いろんな人の訳も読んだけれど、刷り込みのように私の定番になっています。また、『細雪』の家ともよばれる倚松庵は、移転前にも現在地も何度か訪れましたが、つい1年前に住吉川「徘徊」中に久しぶりに訪問、ゆっくり時間を過ごしました。写真もアップしておきます。 次は文学館に話題を移しますね。教材研究のため、また個人的な関心もあり、文豪をはじめ多くの作家の企画展にはできるだけ足を運びました。中でもSODEOKAさんの住んでおられた姫路文学館は、近くの美術館とともによく通いました。お城を眺めながら安藤忠雄氏設計の建物も楽しく、講座や記念講演などもたまに行ったものです。 それではSODEOKAさん、バトンをお渡しします。よろしくお願いします。(2020・07・02・YAMAMOTO) 追記2024・02・02 にほんブログ村 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.02.07 22:59:30
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