ビン・リュー「行き止まりの世界に生まれて」シネリーブル
チラシの写真をご覧いただくと、スケート・ボードで滑っていく3人の少年が映っています。手前の少年がキアー・ジョンソンという黒人の少年であることは確かなのですが、残りの二人が、映画に出ていた誰なのか、よくわかりません。
見たのはビン・リュー「行き止まりの世界に生まれて」です。イリノイ州のロックフォードという町が舞台のようです。
「アメリカで最も惨めな町」
なのだそうです。彼らが滑走している道路は、もちろん、公道、普通の路上です。
スクリーンには冒頭から、このチラシのようにスケボーで滑走する少年たちが映し出されます。見事に滑っていく少年たちの姿を追いかけるカメラワークに感心しながら見ていて、はっと気づきました。
カメラも滑っているのです!
映像は滑っていく少年たちを、同じように滑りながら撮り続けるもう一人の少年がいることを示しています。それが、この映画の監督ビン・リューでした。そして、そのカメラワークにこの映画のよさが詰まっていると思いました。
この映画がクローズアップして取り続けるスケボー少年は3人でした。笑顔が何ともいえないキアー・ジョンソン、ほとんどアルコール中毒のように酒を飲み続けるハンサムは白人少年、ザック・マリガン。そして仲間たちの姿をカメラで追い続けるビン・リューです。
この3人ですね。
映画は3人が10代の半ばから今日まで、どうやって暮らしてきたのかを追います。そんなフィルムが何故可能だったのか。ぼくの感想では、真ん中に立ってるビン・リューがビデオおたくだったからです。
おそらく中学生だったビン・リューは、路上で出会った友達のカッコイイ「技」を「Minding the Gap」、「溝に気を付けて」という気分で、撮り残したかったに違いありません。結果的に彼は、3人の「人生」そのものをとることに成功しています。
「お父さんに、殴られたりしたことはあるの?」
父親のいないビン・リューが、殴ることでしか自分を伝えられない父親と暮らすキアー・ジョンソンに尋ねます。
「そりゃあ・・・・」
口籠りながら、笑顔がはじけます。彼は、こんなふうに笑うために路上に出て、腕を磨いてきたのです。
ガールフレンドとの間に子どもが出来て、父親になったザック・マリガンは「家庭」を作ることに失敗します。彼はアルコールがやめられないのです。
10年が過ぎて、町を出ていく決心をしたキアー・ジョンソン。生きていることがみじめで、辛くて仕方がないと口走るザック。そして、映画をプロとして撮る道を歩み始めたビン・リュー。
カメラは、スケート・ボードの滑走を追いかけた同じ角度で、二人の友人と自分自身の「人生」を撮り続けます。「 Gap」は、いろんな形で、これでもか、これでもかと出現します。
「 Gap」をなんとか越えようとあがく少年たちの姿を、あるがままに捉えた映像は、掛け値なしの「愛」を表現していると思いました。
なんといっても、カメラマンであるビン・リューも一緒に滑走しているのですから。
この3年間、何10本かのドキュメンタリーを観てきましたが、この映画には、今まで見たことのない
「あたたかさ」
を感じました。
それと同時に「行き止まりの世界に生まれて」と名付けた、配給会社の邦題のつけ方に、なんだかよくわかりませんが、どうも心に引っかかる「上から目線」を感じたことも付け加えておきたいと思いました。
監督 ビン・リュー
製作 ダイアン・クォン ビン・リュー
撮影 ビン・リュー
編集 ジョシュア・アルトマン ビン・リュー
音楽 ネイサン・ハルパーン クリス・ルッジェーロ
キャスト
キアー・ジョンソン
ザック・マリガン
ビン・リュー
ニナ・ボーグレン
ケント・アバナシー
モンユエ・ボーレン
2018年・93分・アメリカ 原題「Minding the Gap」
2020・09・28・シネリーブルno68
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