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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.10.24
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​​新井高子 編「東北おんば訳 石川啄木のうた」(未来社)

​​​​​​​​​​​​​​​​​ 石川啄木岩手県の出身の歌人であることはよく知られていますが、彼の短歌は「標準語」、あるいは、おそらく、当時、標準的であったのであろう「歌語」で書かれています。
 啄木が使う言葉が「標準」的な「日本語」として、実際に彼が生きた時代に使われていた「口語」であったのかどうか、そのあたりにも面白いことがありそうですが、この本は、2011年東北震災の後、大船渡という港町の仮設住宅に暮らしていた「おんば」たちが、その石川啄木​​の短歌を東北弁「訳す」という試みです。​​​​​​​
​​​​​​​ 啄木が生きていれば、この試みをどう思うのか、喜ぶのでしょうかね。​「東京」へ行きたかった啄木。​​​

​​​停車場で故郷のなまりを聞いて泣いたに違いない啄木。春になれば、北上川の岸辺を思い浮かべていた啄木。​​​
​​​​​​​ いろんな姿を思い浮かべながら、想像すると、やっぱり、泣きそうな気がしますね。いろんな意味で。
 有名な短歌の「おんば訳」をここに引用してみます。訳なので、歌の調子は変わってしまっていますが、ちょっと読んでみてください。​​​​

​​​​おだってで おっかあおぶったっけァ
あんまり軽くてなげできて
三足もあるげねがァがったぁ

たはむれに母を背負いて
そのあまり軽ろきに泣きて
三歩あゆまず
​​(「三足」は「みあし」・「おだづ」は「戯れる」、「ふざける」の意。)​​

​​​とっどきでも着て
旅しでァなぁ
こどしも思いながら過ぎだどもなぁ

あたらしき背広など着て
旅をせむ
しかく今年も思ひ過ぎたる
​(「とっどき」は「とっておき」、「こどし」は「今年」の意。)​​
​​
​​​​​​​稼せぇでも
稼せぇでも なんぼ稼せぇでもらぐになんねァ
じィっと 手っこ見っぺ

はたらけど
はたらけど猶わがくらし楽にならざり
ぢつと手を見る​​​​​​​
​​​​​​友だぢが おらよりえらぐめえる日ァ、
花っこ買って来て
ががぁどはなしっこ

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買い来て
妻としたしむ​​​​​
​​​​​猫の耳っこ引っぱって、
ネァッと啼げば、
たんまげでよろごぶわ
らすのつさっこ。

​​​
ねこのみみを引っぱりてみて
にやと啼けば、
びっくりして喜ぶ子供の顔かな。
(「わらす」は「子ども」・「つさっこ」は「顔」の意)​​​
​​

​​​​​​​​​​​​ ​​仮設住宅で、交互に口語訳して笑いあっているオバさんたちの顔が浮かびます。ぼくは​「稼せぇでも稼せぇでも」​とか、​「ががぁどはなしっこ」​​なんていう言い回しが気に入りました。言葉に​​「勢い」がありますね。まあ、そうなると、​もう啄木じゃない​ような気もしますが、それはそれで、ということでしょうね。​​
​​​ 最後のネコの歌は、「おんば」たち「しあわせな子供の情景」を思い浮かべていらっしゃる様子が、​​​​​「わらすのつさっこ」​​という「ことば」に響いていて、とてもいいなと思いました。​​​​​

 おもしろがりたい方は、是非、一度手に取ってみてください。
​​​


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最終更新日  2023.05.15 10:38:57
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