「100days100bookcovers no33」(33日目)
吉田秋生『BANANA FISH』(小学館・全19巻)
YAMAMOTOさんご紹介の『夜と霧』は、ナチスの強制収容所での体験について書かれた古典的名著です。私は思春期のまっただ中でこの本を読みましたが、いま読んだら、あのときとはまた違ったことが見えてくるのは間違いないでしょう。命のあるうちに、もういちど読んでみたい。この本を思い出させて下さったYAMAMOTOさんに感謝です。
さて次は、私がこの本に出会うきっかけになった『夜と霧の隅で』の作者・北杜夫へ行こうか、どうしようか、と考えましたが、人間の
極限状態
を描いた作品、ということで、これが頭に浮かびました。
『BANANA FISH』吉田秋生(小学館・全19巻)
マンガかい!
と思われた方、すみません。このリレーで私が勝手に設けているセルフ・ルールがあって、それはできる限り「エンタメ」で繋ぐ、ということです。どうしてかというと、私の中身がエンタメで構成されているからです(笑)。私だけのルールですので、どうぞどなたもお気になさることなく。
昨年フレデリック・ワイズマンの映画『ニューヨーク公共図書館』が公開されたとき、まず頭に浮かんだのは『BANANA FISH』のラストシーンでした。このリレーでご一緒しているKOBAYASIさんに、FBでそのことを話したところ、
「バナナフィッシュ?サリンジャーですか?」
と言われて私も「は?」という状態に。サリンジャーに『バナナフィッシュにうってつけの日』という短編があることをそのとき初めて知り、さっそく読んでみたのですが、大いに関係がありました。
今回『BANANA FISH』を久しぶりに再読してみると、サリンジャーへの言及、ちゃんとあります。読み落としていたんです。
『BANANA FISH』は1985年に別冊少女コミックで連載が始まり、9年かかって完結した吉田秋生の長編マンガです。とにかく面白い。今回も全19巻を一気読みでした。すでに評価が定まっているので、ご存じの方も多いでしょう。長期間の連載なので、途中でだんだん絵も変化していきます。
ニューヨークを舞台に、主人公アッシュを中心としたストリートキッズの世界を描いているのですが、この17歳の少年・アッシュがIQ200の美貌の天才(少女マンガです)という設定ゆえ、話は不良少年たちの抗争におさまらず、イタリアン・マフィアや中国の財閥一族、FBIまで巻き込んで、ハリウッドも顔負けのサスペンス活劇に発展してゆきます。
かれらの抗争の中心にあるのが(ブラックボックスでもあるのですが)「バナナフィッシュ」、催眠作用を伴う麻薬の名前です。その麻薬を権力の道具にしようとする大人たちが、バナナフィッシュの秘密を知ってしまったアッシュとその周辺の少年たちを追い詰め、秘密を入手しようとするのですが、いつもすんでのところで、少年たちの情報網と結束力、アッシュの頭脳とリーダーシップに阻まれます。
しかし、話の中盤からは、アッシュという存在そのものがまるで麻薬のように(本人が意図しないという意味でもまさに)権力者たちを翻弄してゆくことになります。 このマンガではさまざまな大人たちが描かれますが、少年たちも多様です。白人、黒人、スパニッシュ、メキシカン、チャイニーズなど多数のグループがあり、それぞれに民族特有のルールや考え方、死生観があります。
吉田秋生は日本在住の日本人ですので、リアリティを期待してはいけないでしょうが、おそらくかなりのリサーチを行ったでしょうし、彼女の興味や考え方は十分に反映されていると思います。
いずれにしろ、ニューヨークのダークサイドは、「多民族の軋みを体感したことのない日本人」のいない世界なのです。
そんな世界へ、ひとりの何も知らない日本人少年・英二が、たまたま巻き込まれてゆく。そこが、このマンガの肝です。
アッシュの住む世界では、人を疑うことをしない英二は「異物」です。でも、異物はときに「窓」になります。窓を開けると、風が吹き抜けます。アッシュは英二を通して、これまで体験したくてもできなかった世界を知ることになるのです。
が、反面、英二はアッシュにとってのトリガーにもなります。異物はどこまでも異物であり、融合することはできないのです。それを悲劇と捉えるかどうか、それは読者次第です。人が人と出逢う喜びを否定するものは、この世にはないと私は思いたいのです。
これは、今回再読した私の読み方で、これ以外にもいろいろな読み方ができると思います。それが名作っちゅうもんでしょう。
おっと、ニューヨーク公共図書館を置き去りにしてしまいました。ラストシーンだけではなく、『BANANA FISH』には、アッシュがニューヨーク公共図書館を利用するシーンがいくつも描かれています。家も蔵書も持たないIQ200の少年アッシュにとって、そこはひとりで思索する自宅であり本棚だったというわけです。
映画の話題繋がりで、吉田秋生原作の映画についても少し。記憶に新しいのは是枝裕和監督の『海街ダイアリー』(2015年)、古いところでは中原俊監督の『櫻の園』(1990年)が印象的でした。
『BANANA FISH』は少年を描いていますが、上記2作のマンガは少女の心情を克明に、豊かに描いています。中原監督の『櫻の園』は原作とは肌合いが違っていますが、少女映画としては出色だったと思います。
それではKOBAYASIさん、お願いします。(K・SODEOKA2020・07・29)
追記2024・02・02
100days100bookcoversChallengeの投稿記事を 100days 100bookcovers Challenge備忘録 (1日目~10日目) (11日目~20日目) (21日目~30日目) (31日目~40日目) (41日目~50日目)というかたちまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと備忘録が開きます。
にほんブログ村
にほんブログ村