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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2020.11.12
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​​​​ 堀尾省太「ゴールデン ゴールド(1~7)」(講談社)


 「スゴイ!」とか「イイネ!」とかを誰かがクリックして、何となく盛り上がる感じが、いつの間にか何十万「イイネ」とかになって、何が「イイネ!」なのか、実は誰にもわからないのに本屋の店先で積み上げられて、あっという間に何百万部の売り上げになると、巨匠とか鬼才とか名匠というレッテルが張られています。
 それが、現代という「空虚」の、一つの実相なのだと批判を口にする人でも、自らブログだの、なんだの、ネット・メディアの世界にちょっと足を突っ込んでみると、それこそ、あっという間に「イイネ!」依存症患者、クリック待望症候群の一人であることを発見することになります。 
 利いた風な口をきいていますが、ゴジラ老人などと称して書いていること自体が、そういう事態の実践であるという、ある種、がんじがらめの「空虚」を、「不気味さ」として描いている、「スゴイ!」マンガが9月のマンガ便に入っていました。
 ​堀尾省太「ゴールデンゴールド」です。​
​​​ 瀬戸内海で、尾道あたりからフェリーに乗ると、本土の通勤圏内にある、「寧島」という何となくさびれた島が舞台です。都会の中学校で不登校になって、よろず屋と民宿を経営している、田舎のオバーチャン、早坂町子の家で暮らしている、中学3年生の早坂琉花ちゃんが主人公です。


​​​
​​ かなり有名なマンガらしいのでストーリーは端折りますが、彼女が海岸で拾った、表紙に登場する「仏像」状の物体が「福の神」であるらしいというのが、このマンガの設定です。「福の神」なので、かなえられる夢は「お金」です。あらゆる夢が「儲かる」という形で実体化します。​​
​​ 要するに、その願い小さかろうが、大きかろうが、「福の神」を信じ、「福の神」から気に入られた人の願いが叶うという、まあ、いわば人々の夢が「ラッキー」として実体化し続けるとどうなるかということなのですが、これが「不気味」としか言いようのない連鎖反応を引き起こすのです。​​


​​​ 「欲望」が「欲望」を生む連鎖、あるいは「欲望」を「欲望」する連鎖というべきかもしれません。7巻まで、一気読みしてしまいましたが、今や複数の「福の神」が島に跋扈していて、おそらくこの後は「福の神同士の「戦争」状態に突入するのではないかというのが、ぼくの予想です。かなう欲望が複数あれば、あとは力勝負ということで、神々による戦いが始まるほかありません。​​​


 所謂、SNSの世界が作り出している「空虚」から、このマンガについてのおしゃべりを始めたわけですが、「お金」や「損・得」という価値観の支配する世界から、いったい何が失われて行きつつあるのかというのが、このマンガが描いていることのようです。
​​​ しかし、話しはそう簡単なわけではなくて、孫の早坂琉花ちゃんの目の前で、なにげなく夢見たことが次々と叶い続け、始めは偶然だったできごとが、巻を追うごとに必然化してゆき、それと共に変貌していく町子お婆ちゃんの姿が、琉花ちゃんには「不可解」というよりも「不気味」に映り始めるところが、このマンガの「肝」なのでしょうね。
​​​ 
​そんな風に考えながらも、早坂町子の姿に、妙にリアルな既視感を抱く、彼女と、ほぼ、同年代の読者である自分を発見するゴジラ老人なのですが、これはいったいどういうことでしょう。​
 ひょっとすると、SNSの世界で繰り広げられている、本来、ヴァーチャルだったはずの世界の実体化現象が、普通の生活をしていたはずの人々の生活感を、根こそぎ奪い始めている現代という社会の様子が、このお話と微妙に似ていることに由来している既視感なのかもしれません。
 ついでに当てずっぽうをいえば、今となっては
高度経済成長期の終末現象だったと知っている、1980年代、あのバブルの時代の様子にも似ている気がしないでもないのです。
​​ 「イイネ!」という「福の神」にすがっているのか、「スゴイ!」という、本来ただの記号だったはずの、まあ、「お金」のようなものに生きがいとかを見つけ始めているのか。​​
 老人の感想も、やはり、「不気味」ということになるのでしょうかね。ちょっと、それではヤバイと思うのですが。


 それにしても、このマンガ、ただ今、第8巻まで出ているようですが、どう終わらせるのでしょうね。興味津々ですね。

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最終更新日  2020.12.13 22:14:14
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