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カテゴリ:週刊マンガ便「コミック」
勝田文「風太郎不戦日記(1)」(MORNING KC)
2021年、1月3日。ヤサイ君のマンガ便、初荷ですね、届きました。入っていたのがこの作品、「風太郎不戦日記(1)」(講談社)でした。 驚きましたねえ。かつて批評家の関川夏央さんが「戦中派天才老人」と称えた、伝奇小説の天才山田風太郎の日記文学の傑作、「戦中派不戦日記」(講談社文庫)を漫画にした人がいるんですね。それも女性漫画家だというから、もう一度驚きでした。 何で女性のマンガ家に驚くのかと訊ねられそうですが、原作が医学生で病弱という理由で徴兵猶予になっている「青年」の告白日記ですが、それを女性が描くのかと思ったからです。 が、ページを繰って主人公のキャラクターの造形を見て納得しました。なるほど、こういう、何となくうだつが上がらず、くよくよと考え込む「男性」のタイプに対する「批評性」というのは、女性の眼のほうが鋭いのかもしれませんね。 原作が持っている作家山田風太郎自身の自己批評性にも理由はあるでしょうが、マンガの絵柄の、どことなくコミカルなイメージが、そのあたりを鋭く描いていると感じました。 伝記作家山田風太郎は「奇想天外」という決まり文句て紹介されることが多いのですが、作品世界を伝奇的に、あるいは荒唐無稽に描きながら、その時代や事件に対するシニカルな批評性と、フトした拍子に描き出す、リリシズムとカタカナで言いたくなるような抒情性にこそ特徴があると思うのですが、勝田文さんは、この、後の作家の若書きの日記の中から、風太郎文学の肝ともいえる、シニシズムとリリシズムを、見事に描き出していました。 醒めてシニカルで、それでいて、ニヒルになり切れない根性なしの、医学生「山田誠也」の素顔がこれです。 マンガで描かれてみると、後の山田風太郎が、ここに居るというのが勝田文の「戦中派不戦日記」の読み方なんだなと共感しました。 そしてページをめくるとこのシーンです。 2月26日の雪の朝の光景ですが、もちろん、1936年のあの日のことではありません。1945年の冬の朝のことですが、ふと1936年のあの朝を思い浮かべさせる描き方がうまいですね。時間の重層性とでもいうイメージが、実に抒情的な、いや、リリカルな美しい画面として描かれているところに感心しました。 それにしても、若いマンガ家たちが「戦争」を書き始めているのは何故でしょう。単に売れ筋を探しての現象というばかりではないと思うのですが。 もう一つの期待、山田風太郎の「日記」というネタは戦後の子育てまで、かなりたくさんありますが、勝田文さんはどこまで書くのでしょうね、原作の日記は、それぞれ、結構分厚くて読み直すのは大変です。頑張って続けてほしいものですね。 ああ、そういえば山田風太郎は、先日、対談集を案内した水木しげると鶴見俊輔の二人と同い年、1922年生まれですね。この世代の人達の残したものに光を当てるという作業にも、ぼくは共感しましたね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.01.04 03:01:03
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