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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2021.01.22
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​バルナバーシュ・トート「この世界に残されて」2021-no5シネリーブル神戸​
​ 何の偶然なのでしょう、新しい年に入って、気難しい孤独癖の中年のオジサンに少女が「恋?」をするという映画を立てつづけて2本見ました。​
​ 1本目がどなたでもご存知の名作​「レオン・完全版」​、2本目がこの映画「この世界に残されて」です。​
​ ​「レオン」​の舞台はニューヨーク、家族皆殺しという惨劇を目撃した​少女マチルダ「恋?」をする相手は殺し屋でしたが、この映画では産婦人科の医師でした。​
​​​ 「この世界に残されて」​​​​は「初潮」が遅れていることを心配したオバであるらしい女性に付き添われた十代半ばの少女が、婦人科の医師の診察を受ける、診察室のシーンから始まりました。
 少女の名前は​クララ​、医師の名前は​アルド​。白衣を手繰り上げた医師の左腕には青黒い数字の入れ墨が見えます。​​​彼女を連れてきた女性は大叔母のオルギで、身寄りのないクララの世話をしています。​​

​ 今日の診察がはじめてではないことが、オルギの言葉からわかりますが、医師は少女の体のどこも悪くないことを静かに告げるだけです。​
​​ 少女が診察を受けているこの病院のある場所は、はっきりしたことはわかりませんが、東欧の国、ハンガリーブダペストでしょうか。
 時代は、最後まで見ればようやくわかりますが、あの「密告」と「粛清」の独裁者スターリンが死んだ1953年に至る1950年代の初頭です。​​

​​​ 数日後、クララは一人で医師の自宅を訪ね、「初潮」があったこと、そして、その経験が、身体的にも精神的にも、いかに不快であったかを訴えかけます。オルガが自分に対していかに無理解で、学校がいかにくだらない場所であるか、・・・。
 アルドは貴重品の砂糖をたっぷりと入れた、暖かく、甘いホット・レモンを少女に与えながら、静かに話を聞きます。​​​
​そして、なんと、その日から、二人は同じ部屋で暮らし始めます。
 美しく、利かん気で、大人の扉の前に立ったことにいら立っている少女クララと、彼女の言葉に耳を傾け、静かに微笑み、穏やかな忠告を口にする、一人暮らしの医師​アルド​の生活が始まりました。​

 少女は何故、この医師の部屋から帰ろうとしないのでしょうか。医師は何故、少女を追いかえそうとしないのでしょうか。そして、それを、この映画はどのように語ろうとしているのでしょうか。
 驚くべきことに、ここからラストシーンに至るまでの60分余り、この映画はナチスの収容所の悲惨なありさまや、戦災孤児を集めた孤児院の暮らしの苛酷な様子について、言葉としても映像としても、一切、語らないのです。
​​​​​​​ ただ、一度だけ、オルガの言葉によって、孤児院から拾われてきたという少女クララの過去を知ったアルドが​数冊の写真帳を差しだしてこう言うシーンがあるだけでした。​
​「ぼくにはこれを見る勇気はないが、あなたとぼくとの間で公平を期すために、あなたはこれを見てもいい。ただし、ぼくがいないところで。」​​​
 ​​​​​アルドの留守にその写真帖を見はじめたクララが、やがて号泣するシーンを映し出しながら、画面は暗転します。そこに写っていたのは幼い二人の息子と美しい妻、そして笑っているアルドの姿でした。
 なぜ、クララは号泣し、なぜ、アルドはその写真帳を見ることができないのか。
​「この世界」に取り残された二人が、いま巡り合っていること​
​ がひしひしと伝わってきます。​​​​
 それ以外は、ただ、ただ、淡々と、大人になりかかっている少女と独身の中年医師の危なっかしい「同棲」生活と、それをスキャンダラスに噂し始める「密告社会」の小さな「不安」が、少しづつ膨れ上がっていく「兆し」を描くだけです。
​​​ スターリンの死が報じられた当日、再婚したアルドの誕生日を、新しい妻、結婚したらしいクララ夫婦、伯母(確か、彼女もいたと思のですが、確かではありません)、アルドの職場の寡黙な看護師の6人で祝い合う美しいシーンが、この映画で、初めて差し込んできた明るい日射しのような印象を残して映画は終わります。​​​
​​​​​​​ もちろん、その後のハンガリーの歴史を知る人間であれば、この穏やかなシーンが束の間の小春日和であることはすぐに気づくことなのですが、「この世界に残された」二人が、それぞれ、抱きしめ合うことができる「他者」と巡り合ったことを知らせるこのシーンは、ぼくにとって心からホッとするシーンでした。
 それにしても、これほどまで寡黙に、そして、あたたかく「この世界」に取り残された人々の​「愛」​の姿を描いた作品はほかにあるでしょうか。
 1940年代に、主人公たちが経験したに違いない壮絶な過去を、その未来に起こるハンガリー動乱の悲惨同様、描かないことで、「この世界」の悲しい姿と「人間」の「愛」の美しさとを描き切ってみせたバルナバーシュ・トートという監督はただ者ではありませんね。​​
​​​​​​
​​​​ 「レオン」という映画の中でマチルダレオンがニューヨークの街を歩くシーンが印象深く記憶に残っています。この映画でも、クララアルドがブダペストの街を歩く美しいシーンがあります。ぼくにとっては、長く記憶に残るシーンになりそうです。​​​​​
 ​「レオン」の感想はここをクリックしてください。​

監督 バルナバーシュ・トート
製作 モニカ・メーチ  エルヌー・メシュテルハーズィ
原作 ジュジャ・F・バールコニ
脚本 バルナバーシュ・トート  クラーラ・ムヒ
撮影 ガーボル・マロシ
音楽 ラースロ・ピリシ
キャスト
カーロイ・ハイデュク(アルダール・ケルネル通称アルド)
アビゲール・セーケ(クララ)
マリ・ナジ(オルギ・大叔母)
カタリン・シムコー(エルジ)
バルナバーシュ・ホルカイ(ペペ・クララの恋人)
2019年・88分・G・ハンガリー
原題「Akik maradtak」
2021・01・19・シネリーブル神戸no78

 追記
 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)​​​​​​​​​​
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最終更新日  2024.03.21 23:37:20
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