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高橋源一郎「読むって、どんなこと?(その2)」(NHK出版)
高橋源一郎「読むって、どんなこと?」の(その2)、「つづき」ですので、裏表紙を貼ってみました。時間割と「テーマ」が読み取れるでしょうか。 それぞれの授業で、学校の教室の勉強では「読めない」テキストが使用されています。 1時間目は「簡単な文章を読む」というテーマの授業ですが、テキストはオノ・ヨーコ「グレープフルーツ・ジュース」(講談社文庫)です。 ぼくがこれまでに燃やした本の中でこれが一番偉大な本だ。 という言葉で始まる本だそうですが、オノ・ヨーコさんの「簡単な文章」の例はこうです。 「地下水の流れる音を聞きなさい。」 これに対して、学校でならう詩の中で、ある時期、まあ、今でもかもしれませんが、代表的な人気を誇った黒田三郎さんのこの詩が対比されます。 紙風船 黒田三郎 二つの詩、あるいは詩(のような文章)と詩が比較されて論じられますが、興味が湧いた人はこの本を探して読んでみてください。学校の先生は、何故、オノ・ヨーコの文章を教室では扱われないのでしょう。 そういう問い方を高橋先生はするのですが、おわかりでしょうか。 2時間目は「もうひとつ簡単な文章を読む」時間です。テキストは哲学者の鶴見俊輔、「もうろく帖(後編)」(編集グループSURE)からの引用です。 お読みになる前に(その1)で引用した「そのときの人ぶつのようすや気もちを思いうかべながら読みましょう」という、小学生2年生に対する読み方の指針を思い出してみてください。 2005年11月4日最後の10月21日の文章が、鶴見俊輔の絶筆だそうです。この文章を書いた6日後、脳梗塞を発症し、「ことばの機能」を失い、「書く」ことや、「話す」ことができなくなった老哲学者は「読む」ことだけはできたそうです。最後の数年間、2015年7月20日に93歳でなくなるまで、ただ「読書の人」であったようです。 高橋先生はそんな鶴見俊輔の姿を思いうかべながら「読む」ことについて問いかけています。この「文章」を「そのときの人物」になって「読む」とはどうすることでしょう。最後まで本を手放さなかった哲学者を思いうかべて考えてみてください。 またしても長くなっていますね。ここからは、できるだけテキストだけ紹介します。 3時間目は「(絶対に)学校では教えない文章を読む。」というテーマです。テキストは永沢光雄「AV女優」(文春文庫)から、刹奈紫之(せつなしの)さんという人のインタビュー。 はい、間違いなく学校では教えません。初めてお読みになる方は「アゼン」となさるんじゃないかと思います。しかし、なぜ、学校では読まないのでしょう。 ぼくは読んだことがありますが、そこには「本当のこと」が書かれていて、きちんとお読みになれば、実はすごいインタビューだということはわかるのですが、教室で読もうという発想にはなりませんでした。なぜでしょう。 4時間目は「(たぶん)学校では教えない文章を読む。」というテーマですが、テキストの坂口安吾「天皇陛下にささぐる言葉」(景文館書店)は、授業で扱うには、かなり度胸がいることがすぐにわかります。同じ作家の「堕落論」を教室で読むことはあっても、この文章を教室に持っていくことはためらわれます。なぜでしょう。 ぼくは、もし、高橋先生がこの話をテレビかラジオであっても、実際に話したことをNHKが放送したのであれば、NHKを見直します。 3時間目の文章と4時間目の文章には、「私たち」の社会が隠そうとしている「なにか」について、本当のことを書いているという共通点があります。そのことを思いうかべてながら5時間目のテキストを読むと高橋先生が語ろうとしている「なにか」が見えてくる気がします。 5時間目のテーマは「学校で教えてくれる(はずの)文章を読む」です。テキストの武田泰淳「審判」(小学館)は、手紙形式の告白小説ですが、「そのときの人ぶつの気持ち」になることがまず可能な作品であるかどうかと考え込んでしまいました。 夏目漱石の「こころ」の第三部も同じ形式の告白小説ですが、あの「先生」の気持になることは可能なのかどうか、と考えられればおわかりだと思いますが、実は、限りなく難しいわけです。 その上、この作品は戦場で人を殺すことが平気になった男の告白なのです。戦後文学には、他にも同じような「告白」がありますが、本当に「読む」ことができているのでしょうか。 この辺りから高橋先生の「考えていること、語ろうとしていること」が見え始めたような気がしました。とりあえず、今日はここまでで、(その3)につづきます。 (その1)・(その3)にはここをクリックしレ下さい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.09.05 22:58:36
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