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カテゴリ:映画 フランスの監督
アントワーヌ・ランボー「私は確信する」シネリーブル神戸
この映画のチラシには 「ヒッチコック狂」の完全犯罪 フランス全土の関心を集めた「ヴィギェ事件」と宣伝されていて、妻殺しを疑われながらも、一審で無罪判決を受けた大学教授が上告されて、という実話があるそうで、その裁判のドラマ化という、法廷もの映画でした。 法廷もの映画というのは、ぼくの好きなジャンルですが、最近、あまり見かけません。というわけで、普段はあまり読まない「チラシ」と「予告編」につられてやって来ました。見たのはアントワーヌ・ランボー監督の「私は確信する」です。 レストランの調理場で、女性のシェフが料理をしていますが、高級なフランス料理というわけではなさそうです。お昼ご飯を食べる食堂という感じのお店ですが、お昼の仕事を終えて女性は、黒人の同僚とシャワーを浴び、おやおや、そういう関係ですかという行為に及びます。それが映画の始まりでした。 この女性シェフが、実はシングルマザーで、この事件の探偵役のノラさんでした。彼女は、何の資格もないのですが、事件を担当することになった弁護士の、にわか助手として、膨大な通話記録から「真犯人」を見つけ出していく「女性探偵」へと変貌していくのですが、なぜそれほど気合を入れて「探偵」になってしまうのかよくわからないのがこの映画の残念なところでした。 「死体」のない殺人というミステリーを、法はどう裁くのかという筋書きで映画は進むのですが、当然、見ているぼくは、 「で、真相はどうなの?」という気分なわけです。そして、その気分を代行してくれるのがノラさんだったわけです。 真犯人と思しき男の、通話の矛盾を見つけ出し、事件の「真相」に迫っていくノラ探偵の様子は、ワクワクする展開なのですが、1審の陪審員だったことを隠していたことから弁護士と決裂し、疑った相手からは開き直られ、とどのつまりは、あわてて道路に飛び出して車にはねられるわ、職は失うわという展開で、「万事休す」となってしまいます。 ところが、そこからが弁護士の登場でしたね。ぼくは、敗色濃厚なこの裁判で、弁護士が何をするのか予想がつきませんでしたが、見終えてみると、なるほどそうかでした。 ぼくの好きな作家、大岡昇平に「事件」という「法廷小説」があります。野村芳太郎が同名の映画にしたのが1978年、大竹しのぶと渡瀬恒彦が印象的でしたが、その、小説にしろ映画にしろ、記憶に残ったのが「推定無罪」という「法」をめぐる概念でした。 「有罪」が証拠立てられる、あるいは、判決される以前の容疑者は「無罪」だということだったと思いますが、大事なことは「有罪」を論証するためには、原則として「物証」が必要だというのは、おそらくどこの国でも同じ事だと思います。 ただ、日本でも導入されているわけですが、「陪審員制度」で行われる裁判の場合、そのあたりがどうなるのかは、よくわかりません。おそらく単なる印象で判断してはならないくらいの心得は教えられているのではないでしょうか。 この映画の事件で、モレッティ弁護士は、なぜ弁護を引き受けたのかということを考えた時に、上に書いた「推定無罪」という原則に則れば「負ける」はずがないという読みだったのではないかと気づいたのは、彼の法廷での演説を聞いた後でした。 そういえば、最後の弁論を前にして「真犯人」という獲物を狙う「狼」のようになった探偵ノラに対して、モレッティ弁護士がいうセリフがこうでした。 「その獣のような目つきは何だ。カン違いするな。この裁判は真犯人を見つけ出す場ではないんだ。」 とまあ、こう書きましたが、実は、正確な記憶ではありませんが意味はこうだったと思います。「真相」探しに熱中しているのらと、彼女がいかにそれをつかむのかと見入っていたボクにとって、なんとも鼻白む発言じゃないですか。 しかし、弁論をきけば「なるほどそうか」なのでした。実際、未解決の事件なわけで、オール実名で映画化しているスクリーンで「真犯人」を決めつめることはは無理でしょうね。でも、彼の演説の見事さが「推定無罪」を思い出させてくれたのはクリーン・ヒットでした。 弁護士役のオリビエ・グルメという役者さんも、ノラを演じていたマリナ・フォイスという女優さんもよかったですね。 ああ、それにしても、実話には存在しない「架空の人物」であるノラの「執着」の説明は、どこかにあったのでしょうか。そこが引っ掛かりましたね。 監督 アントワーヌ・ランボー 製作 カロリーヌ・アドリアン 原案 アントワーヌ・ランボー カリム・ドリディ 脚本 アントワーヌ・ランボー イザベル・ラザール 撮影 ピエール・コットロー 衣装 イザベル・パネッティエ 音楽 グレゴワール・オージェ キャスト マリナ・フォイス(ノラ) オリビエ・グルメ(デュポン=モレッティ弁護士) ローラン・リュカ(ジャック・ヴィギェ) フィリップ・ウシャン(オリヴィエ・デュランデ) インディア・ヘア(セヴェリーヌ) アルマンド・ブーランジェ(クレマンス・ヴィギェ) ジャン・ベンギーギ(スピネル弁護士) スティーブ・ティアンチュー(ブルノ) フランソワ・フェネール(リキアルディ裁判長) フィリップ・ドルモア(検察官) 2018年・110分・フランス・ベルギー合作 原題「Une intime conviction」 2021・02・26シネリーブルno83 大岡昇平の「事件」はこれです。創元推理文庫に入っているようですね。追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.03.30 23:26:33
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