|
カテゴリ:映画 アニメーション
ギンツ・ジルバロディス「Away」神戸アートビレッジセンター
2020年の秋、アートビレッジで予告編を見ました。そのあと、この映画を見た東京在住の知人たちの好評が耳に入ってきました。で、待ちかねていましたが、神戸ではやっとのことで上映です。 ギンツ・ジルバロディスというラトビアの28歳だかの青年が、一人で、3年かけて作った作品「Away」でした。 かすかな、自然の音、風とか鳥の羽ばたき、それから、オートバイのエンジンの音が記憶に残りました。 81分のフィルムに、人間の言葉は一度も聞こえてきません。スクリーンに映し出される出来事はシーンとして存在しますが、意味としては存在しません。 彼が出会う「コトリ」であれ、「カメ」であれ、「ゾウ」であれ、目の前の自然の「アメ」であれ、「カゼ」であれ、「ナダレ」であれ、そのようにそこあるだけ。そのように飛び、そのように転び、そのように崩れ落ちてきます。 足元から広がる世界が鏡のように頭上を映し出していて、かつ、逆立ちした向うの世界も映して出しているように見えます。 少年は二つの世界の狭間に立って、空を見上げ地面を覗き込みます。なんとかして意味を見つけ出そうと、物語を読み取ろうとしているのは、見ているぼくの勝手であることがじわじわとしみ込んでくるような映像でした。 二つの世界とは「生と死」でしょうか、「過去と未来」でしょうか、「夢と現実」でしょうか。ああ、ちがうのです。そんな世界から遠く離れた、今、このときが描かれているのですね、きっと。 傷ついた「コトリ」をポケットに入れ、転んだ「カメ」を起こしてやり、そして、オートバイは疾走します。やがて世界の突端にやってきた少年は、何もかも捨ててみごとに跳びました。 見終えて、ため息をつき、自分がもう少年ではない事をつくづくと噛みしめました。紺碧の海原に跳び込む勇気など、ぼくにはもうありません。青空に群がる白い鳥たちの群れが、遠い思い出のように浮かんできます。 なんと清々しく、若々しく、勇気あふれる映画でしょう。言葉を棄てた世界には、なんとワクワクとドキドキが溢れていることでしょう。こんなフィルムを一人で作り出す青年が、世界のどこかにいるのです。 若き日の大江健三郎が小説の題名にしてたたえた、W・H・オーデンの詩「見るまえに跳べ」の、こんな一節を思い出していました。 Much can be said for social savior-faire, (拙訳) 拙訳は、ジジイの生活を想定していますが、映画では「No one is watching, but you have to leap. 」という言葉通りの少年の姿が心に残りました。 劇場で、こんな絵ハガキをもらいました。ごちゃごちゃ何にも書いてなくていいですね。 ちょっと蛇足ですが、本編が終わって、「言葉」を棄てた世界の豊かさに、どうしても気づくことが出来ない広告マンがあつらえたのでしょうか、明るく、実にそれらしいダイジェスト版が流れてきたのには驚きました。 明るく楽しい音楽も流れてきましたが、「この国」の哀しさを再認識することになってしまいました。映画に対する評価は人それぞれですが、こういうやり方は、ちょっと違うんじゃないでしょうか。 監督 ギンツ・ジルバロディス 製作 ギンツ・ジルバロディス 編集 ギンツ・ジルバロディス 音楽 ギンツ・ジルバロディス 2019年・81分・G・ラトビア 原題「Away」 2021・03・24-no28神戸アートビレッジセンター 追記2021・03・25 W・H・オーデン「見るまえに跳べ」がありましたから載せておきますね。 Leap Before You Look Wystan Hugh Auden お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.08.02 10:44:54
コメント(0) | コメントを書く
[映画 アニメーション] カテゴリの最新記事
|