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カテゴリ:映画 アメリカの監督
リー・アイザック・チョン「ミナリ」シネリーブル神戸 なんだかチラシに書かれているコピーがまず凄くて、いったいどんな映画なのだろうと煽られました。よく考えてみると、3月くらいになると「アカデミー賞最有力」とかは決まり文句みたいなもので、内実が確かなわけではないのですが、そうはいっても、ついついという気分でした。
そのうえ、「A24」とか「PLAN B」とか、根拠はないのですが、「なんだなんだ」と誘惑されるミーハー気分まで煽られて観たのでした。まあ、こういうパターンには落胆が待っているとしたものなので、それはそれでしようがないという気分まで準備済みです。 結果は、予想に反して拍手!でした。もう、そういってしまえば、それでいいような気分の映画だったのですが拍手の理由は二つです。それについて、ちょっとおしゃべりしようと思います。 拍手の理由のひとつめは祖母、母、娘という女性の描き方でした。 主な登場人物は1980年代、ちょっと時代遅れの「アメリカンドリーム」を夢見てアーカンソー州の高原に移住して来た韓国系移民ジェイコブ。荒れた土地と古びたトレーラーハウスを目にして不安に駆られる妻モニカ。しっかり者の長女アンと心臓を患う好奇心旺盛な弟デビッド。やがて、韓国から娘家族のもとにやって来る祖母スンジャの5人の家族と、手伝いの農夫ポールです。 夫婦が、なけなしのお金をはたいて手に入れた農場での、この五人の家族の暮らしが、この映画のすべてでしたといってもいいでしょう。 「家族」を幸せにすると叫び、「少年の夢」に向かって走るジェイコブに対して、この三人の女性たちが、それぞれ、リアルな現実の体現者としてスクリーンに存在していました。 唐辛子と炒り子と現金を土産に娘のもとにやってきた祖母スンジャの「毒舌」と「破天荒なふるまい」は、1980年に60歳を超えている半島の女性が、その人生で手に入れたに違いない、ある種、アナーキーで自由な「生き方」を感じさせるものでした。 母として息子の心雑音を自ら聴診し、妻として家族の生活の危機から目をそらすことのないモニカは「愛」の夢に溺れることのないリアリストでした。 体の弱い弟をかばい、両親の不和の現場から目をそらすことなく見据えるアンは忍耐の少女といっていいかもしれません。 そして、三人に共通するのは、祖母スンジャが、孫のデビッドと共に近くの水辺で育てる「ミナリ」そのものでした。 彼らの祖国の料理に欠かせない芹ですね。清流の水辺で育ち、料理の味をこわすことなく自らの存在もしっかりと主張する、あの芹のような「女性」の存在感がこの映画には底流していました。 ぼくは穀物小屋が燃え上がるクライマックスの炎にスンジャをはじめとする、過酷な現実を生きながら「やさしさ」を失わなかった「女」たちの哀しみが燃え上がっていると感じました。 拍手の理由の二つ目は、様々な人間が生きている「アメリカ」が描かれていたことでした。 一番象徴的だったのは、手伝いの農夫ポールの姿でした。周りの人たちからは変わりものとして排斥される原理主義的なキリスト教の信者であるこの男の、「心の広さ」を描いたところに、ぼくは、ぼくたちが生きているこの国にはない「アメリカ」らしさを感じました。 現実のアメリカが「ヘイト」や「差別」が横行する国であるらしいことや、原理主義的キリスト教徒の黒人差別について、ぼくでも知らないわけではありません。しかし、いや、だからこそ、自らの信仰にこだわる人こそが、広く他者を受け入れるという姿を描いている映像を目にするのは感動的ですらありましたね。 ぼくには「人間」が「人間」と出会う、こういう映画の制作が「プランB」という会社によってなされていることが、何よりも驚きでした。 別の日にこの作品を見てきたチッチキ夫人が帰って来ての第一声がこうでした。 「プランBって、ブラピの会社でしょ。あのブラピが、こういう映画を作っているっていうのは、やっぱりすごくない?」 とまあ、こんな会話でしたが、この映画のよさは、実はもう一つあって、それは子役のデビッド君ですね。なんというか、トリックスターのような役柄なのですが、実に愛嬌があって可愛らしい。「お前、案外やるな」っていう感じでした。 スンジャを演じるユン・ヨジョンさんは有名な俳優さんらしくて、チッチキ夫人はテレビのほかの番組で知っていました。他の俳優さんたちも、ぶきっちょなジェイコブを演じるスティーブン・ユァンはじめ、なかなかいい味でした。 アカデミー賞的な派手な映画ではありませんでしたが、納得した作品でした。 監督 リー・アイザック・チョン 製作 デデ・ガードナー ジェレミー・クレイマー クリスティーナ・オー 製作総指揮 ブラッド・ピット ジョシュ・バーチョフ スティーブン・ユァン 脚本 リー・アイザック・チョン 撮影 ラクラン・ミルン 編集 ハリー・ユーン 音楽 エミール・モッセリ キャスト スティーブン・ユァン(ジェイコブ) ハン・イェリ(モニカ) アラン・キム(デビッド) ノエル・ケイト・チョー(アン) ユン・ヨジョン(スンジャ) ウィル・パットン(ポール) スコット・ヘイズ(ビリー) 2020年・115分・G・アメリカ 原題「Minari」 2021・03・22‐no26シネリーブル神戸no88 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.05 20:53:48
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