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カテゴリ:読書案内「日本語・教育」
山田史生「孔子はこう考えた」(ちくまプリマー新書)
以前、おなじ「ちくまプリーマー新書」の一冊で「受験生のための一夜漬け漢文教室」(ちくまプリマー新書)という参考書(?)を案内したことがありますが、今回のこの本、「孔子はこう考えた」は同じ著者山田史生さんの「論語」入門書といっていいでしょう。 大学入試突破のお手伝いをする現場から離れて3年たってしまいました。その頃は、センター試験とか、そうはいっても、毎年解いていましたが、今では「問題」を見るどころか、いつあったのかすら気付きません。高校の国語の内容も大きく変わると評判になっていますが、実情についてはよく知りません。 で、今頃、なんで「論語」なんか読んでいるのか、というわけですが、そこはやはり昔取った杵柄というか、孔子先生の言葉を借りれば「学びて時に之を習う、亦、説しからずや」。という感じでしょうか。 「これって高校生にいいんじゃないの」と気づいた本は手に取る、まあ、癖のようなものはまだ残っていて、先日、市民図書館の棚で見つけたのがこの本です。 大学入試に即していえば「漢文」は、「古典」という教科の中の一科目ですが、個々の大学の入試で「漢文」を課す大学は、ぼくが、仕事を辞めるころにはもうありませんでした。かろうじて、センター試験の中の「国語」200点のうち50点が「漢文」の問題という所に残っているだけだったと思います。 ところが、公立の高校入試の場合は100点中、20点ほどの割合で、毎年、出題されていたのですが、今はどうなっているのでしょうね。 「漢文」なんて、役に立たない、お得にならない教科なのでしょうか。そのあたりを、ゴチャゴチャ議論するのはやめますが、一つだけ言えば、「論理国語」なんていう教科を新設するくらいなら「漢文」の時間数を増やした方が、目的に対しては「お得」で「役に立つ」と思うのですが、でも、まあ、すくなくとも、2020年現在の「文部大臣」や「総理大臣」といった方々は、「漢文」どころか、漢字そのものの常識も疑わしいわけですから、まあ、世の流れで「漢文」なんて見向きもされないのはしようがありませんね。 まあ、そういうわけで、本書の案内ですが、この本では「自分のことを好きになろう」というテーマを第1章に掲げて、「孔子」について語り始めています。 最近の世相を見ていて、ちょっと面白いなと思ったのは、「論語:公冶長」編にあるこんな文章を取り上げていたところです。本文では、巻末にまとめてありますが、まず、肝試し代わりに白文を引用します。読めますか? 顏淵季路侍。子曰、盍各言爾志。子路曰、願車馬衣輕裘與朋友共、敝之而無憾。顏淵曰、願無伐善、無施勞。子路曰、願聞子之志。子曰、老者安之、朋友信之、少者懷之。 マア、読めなくても大丈夫です。この文章に対して、山田先生はこんな前振りをして解説を始めます。 「空気が読めない」という言葉がある。「KY」と略したりするようである。 そういう人なんですね、山田先生は。続けて、書き下し分と、口語訳がついています。 こちらが書き下しです。 顏淵、季路、侍す。子曰く、蓋(なん)ぞおのおの爾(なんじ)の志を言わざる。子路曰く、願わくは車馬衣軽裘、朋友と共にし、之を敝(やぶ)るとも憾(うら)むこと無けん。顔淵曰く、願わくは善に伐(ほこ)ること無く、労を施すこと無けん。子路曰く、願わくは子の志を聞かん。子曰く、老いたる者は之を安んじ、朋友は之を信じ、少(わか)き者は之を懐(なつ)けん。 続けて口語訳 顔淵と子路(季路とも)とが先生のそばにいたときのこと。先生「こうありたいという願いをいってごらん」。子路「乗り物や着物や毛皮を友達と共有したら、たとえ使いつぶされてもイヤな顔をしないようにしたいです」。顔淵「どんなに善いことしても自慢せず、ひとさまに迷惑をかけないようにしたいです」。子路「先生の望みもお聞かせください」。先生「年寄りとはリラックスしておしゃべりし、友だちとはざっくばらんにつきあい、若いひととも気がねなくやりたいね」。 かなり、くだけた調子ですが、問題ないでしょう。さて、ここからが解説です。 子路はもと遊侠の徒だったからガラがわるい。しょっちゅうドジをやらかすんだけど、どこか憎めない。 と、まあ、山田先生の論は、「KY」という流行語をネタに、秀才顔淵と比較しながら、子路の発言にあらわれた「空気を読まない」、「空気が読めない」ことの正直さを考えることを読者にうながし、「自分のことを好きになろう」というテーマに向かって、「朝(あした)に道を聞かば、夕べに死すとも可なり。」という結論へ進むわけですが、ぼくがおもしろいと思ったのは、別のことで、「そんたく」という最近の流行語にを思い浮かべたことでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.12.12 21:08:40
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